トーチ展開催記念インタビュー:ストラトス・クリム氏~オリンピック・コレクターの想い~

今年7月14日(土)から、日本大学文理学部資料館での展示を皮切りに、2020年東京オリンピックでギリシャのホストタウンに選ばれている埼玉県三郷市と愛知県稲沢市、そして東京都内の2か所で、9月までの約3か月間に渡って「想いをつなぐ炎~古代オリンピアから日本へ~」と題した特別展が開催される。
ここで展示されるのは、夏季オリンピックから24本、パラリンピックから6本、冬季オリンピックから6本の計36本のオリンピックトーチをはじめ、採火式の巫女として、またそれ以降も採火式に関わり続けて来たマリア・ホルス氏の巫女の衣装といったオリンピックの歴史を語る上で欠かせない貴重な品々だ。
特別展の開始を目前に控え、これら貴重なコレクションを数十年に渡って蒐集し続けて来たギリシャ在住のストラトス・クリム氏がGreeceJapan.comにその想いを語ってくれた。

インタビュー:永田純子(Junko Nagata)

今年7月から9月まで、都内各地と2020年東京オリンピックでのギリシャのホストタウン・埼玉県三郷市と愛知県稲沢市で開催される「想いをつなぐ炎~古代オリンピアから日本へ」と題した特別展で、あなたが収集したオリンピックのトーチが展示されます。今回の特別展について、そしてあなたのコレクションが海を渡って遠く日本で披露されることになった経緯についてお話いただけますか。

今から2年ほど前でしょうか、ある人が私の収集したオリンピック関連のコレクションは海外で展示される価値のあるものだと言ってくれたのです。今まで夢見ていても、叶うはずのないことだと、そんなことはあり得ないと考えていたことが現実のものになるなんて!

始まりは2016年11月、元女子水球の銀メダリストであり、現在ギリシャ・オリンピックメダリスト連盟の理事長を務めるブーラ・コゾボリ氏からの電話でした。彼女は2020年の東京オリンピックに関連して、東京の駐日ギリシャ大使館が私のコレクションを展示する特別展を考えていると連絡してくれたのです。
その電話から程なくして、駐日ギリシャ大使館のディオニシオス・プロトパパス一等参事官・経済商務部部長から特別展について連絡がありました。私にとってこの上ない名誉です、断る理由などありません。こうして、途方もなく大きな障害を乗り越え、夢の実現に向けた旅路が始まったのです。
その電話から数日後、プロトパパス一等参事官から2018年の夏、オリンピックの聖火リレーに関連した小規模な展示を開催する計画があることを伝えられました。こうして私のコレクションの中から、36本のトーチとギリシャ・オリンピアで行われる採火式で巫女たちがまとった衣装を展示することでまとまりました。

ストラトス・クリム氏

ここに至るまで、解決すべき様々な問題が起こりましたが、プロトパパス一等参事官と駐日ギリシャ大使館の皆さまの尽力でここまでたどり着くことが出来たのです。

どのようなきっかけでオリンピック関連のコレクションの収集を始められたのでしょうか。また、いつ頃から収集を始められて、どのようなコレクションをお持ちですか。

収集を始めたのは私が28歳頃のことだったと思います。最初に手に入れたのはラペルピンでした。今では歴代のオリンピック大会のみならず、1896年(明治29)アテネで開催された第1回近代五輪以前に、近代五輪の復活に経済面からも力を尽くしたギリシャ人企業家エヴァンゲロス・ザッパス(1800-1865)の財力により1859年(安政6年)から1889年(明治22)まで開催されたギリシャ独自のオリンピア競技会である「ザッパス・オリンピック」のコレクションに至るまで、所蔵品は多岐に渡ります。具体的には聖火リレーのトーチ、聖火を安全に輸送するためのカンテラ、2004年のアテネオリンピックの聖火リレーの際に用いられた聖火台、各種メダル、バッジ、ピン、書籍、公文書類、写真、そして旗のほか、オリンピックに関連したあらゆるアイテムをコレクションしています。

そんなあなたの豊富なコレクションの中には、1964年(昭和39)の東京オリンピックに関するアイテムも含まれているのでしょうか。

もちろんです。東京大会からは、トーチと大会参加メダルの他に、旗が2枚、花瓶、ライター、車に取り付けるエンブレム、レコードボックス、オリンピアで行われた採火式のメダルまで、あらゆるアイテムをコレクションしています。しかしその中でも最も重要であると私が確信しているのが、当時のギリシャ王国に宛てた日本政府からの東京オリンピックへの公式招待状です。

あなたのコレクションの中で、たった一つを選ぶとすればそれは何でしょうか。特に思い入れのあるコレクションはおありですか。

一つだけを選ぶというのはとても難しいことです。きっと同じことを尋ねられるたび、その答えは違ってくることでしょう。ですから、今は私の頭にまず思い浮かんだものを挙げたいと思います。

それは、1904年(明治37)のセントルイス五輪と1908年(明治41)のロンドン五輪の中間大会として、当時のギリシャ王・ゲオルギオス1世の提唱により1906年(明治39)に歴史上ただ1度開催され、現在は正式なオリンピック大会として数えられていない「メソオリンピアダ」と呼ばれるオリンピック大会で行われた投てき競技「リソボリア(注:重さ約6.4㎏の天然の石を投げ飛距離を競うもので、1906年大会でのみ実施された。)」で実際に使われたギリシャ語で「リサリ」と呼ばれる石です。この貴重な一品は、私が過去アテネで開催した展示会に来場したある熱心な観客の一人から寄贈されたものなのです。

現在ギリシャにはあなたのコレクションを見ることが出来る展示場所はあるのでしょうか。

残念ながら、そういった場所はありません。しかしいつの日か、自分が集めたコレクションを博物館のような恒常的な場所で人の目に触れさせたいと願わないコレクターはいないはずです。もちろん、それは叶わぬ夢かも知れません。それでも、人生をかけて蒐集してきたコレクションを日本で展示するという、これまで私の身に起こった夢のような出来事からもわかるように、絶対に叶わないことなどないのです。そして人間とは、たとえ実現不可能なように思える夢だとしても、それを追いかけずにはいられない生き物なのです。

日本への旅を目前に控えた今、私の胸の内には喜び、不安、焦り、ギリシャのために私のコレクションを展示する機会に恵まれ、そして東京でオリンピックの理想とオリンピズムの価値に対する私の熱狂的な思いを分かち合うことができるのだというこの上ない誇りといった様々な想いがあふれているのがお分かりいただけるのではないでしょうか。

ありがとうございました。あなたの貴重なコレクションが展示される場が用意され、あなたの夢が現実のものとなることを私たちも心からお祈りします。

1964年の東京オリンピックをはじめとしたストラトス・クリム氏の貴重なコレクションの写真

1906年(明治39)に開催された「メソオリンピアダ」の投てき種目・リソボリアで実際に使用された重さ6.4kg・長さ26cm・直径12cmのリサリ(石)
1964年(昭和39年)東京オリンピックの旗
1964年(昭和39年)東京オリンピックの記念品
2004年(平成16年)のアテネオリンピックで使用された聖火台
1988年(昭和63年)ソウル大会、2004年(平成16年)アテネ大会で聖火を運んだ安全灯

 

 

 

永田 純子
永田 純子
(Junko Nagata) GreeceJapan.com 代表。またギリシャ語で日本各地の名所を紹介する  IAPONIA.GR, 英語で日本を紹介する JAPANbywebの共同創設者。

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