(文:永田純子)
あなたはギリシャの音楽を聴いたことがあるでしょうか。ギリシャの歌手と言われて思い浮かぶ顔があるでしょうか。映画が好きな方ならば、『日曜はダメよ』や『その男ゾルバ』を観たことがあるかも知れません。では音楽は?と問われても、おそらくこれはという一曲を挙げるのは難しいのではと思います。
では、ギリシャの音楽はこれまでまったく日本で紹介されることがなかったのか?もちろんそんなことはありませんでした。
ギリシャの女性歌手の中でも、70年代初めから今もなお40年以上に渡って現役で活躍し続けるハリス・アレクシーウが東京で記念すべき初来日公演を行った1994年(平成6年)前後に、アレクシーウをはじめとしたギリシャの歌がいくつか日本盤のアルバム(CD)としてリリースされ、誰もが手に取ることができるようになったのです。その中の一枚が、今回ご紹介する1994年に音楽評論家・中村とうよう氏が監修した「ギリシャ歌謡への誘い~ミノスのスターたち~」です。
それまでワールドミュージックのリスナーの間で聴かれてきたアレクシーウや、彼女とともに長年ギリシャ歌謡界の頂点に立つ男性歌手ヨルゴス・ダラーラス、ギリシャ・パロス島出身であることから名づけられたパリオスの芸名を持つ愛の唄うたいヤニス・パリオス、そしてマリネッラ、ディーミトラ・ガラーニ、エレーニ・ヴィターリ、ジェニ・ヴァーヌとギリシャでは知らぬ者のない歌手たちの唄を、とうよう氏ならではのチョイスで厳選したこのアルバムは、そのタイトルのとおりギリシャの著名レコード会社・ミノス社の専属歌手だった彼らの唄を集めた日本だけの贅沢な一枚だったのです。
つねに演歌が流れる家に育った筆者は、ふと立ち寄ったCDショップで発売直後のこのアルバムを手に取り衝撃を受けました。歌詞カードと解説がなければまったく意味のわからないギリシャ語、どう拍を取ったらいいのかわからない9拍子の唄、まるで演歌のようにまわるコブシ…それは大きな衝撃でした。これほどの唄を、言葉を理解せずに聴きたくない。もっといろんな唄が聴きたい。これがすべての始まりでした。
時は流れて、今や音楽はダウンロードして聴くものになりました。音楽を楽しむ形は変わっても、ギリシャの唄に対するときめき、声ひとつで歌詞の世界を表現するギリシャの歌手に対する敬意の念は今も変わりません。このコラムでは、そんなギリシャの音楽にまつわる話を、彼の地で音楽に携わる人たちとのインタビューなども交えながらご紹介していきたいと思っています。ご期待ください。
CD Data:
「中村とうよう監修 ギリシャ音楽への誘い② ギリシャ歌謡への誘い~ミノスのスターたち~」
発売元・オルターポップ/配給・株式会社メタ・カンパニー(GRPCD-703/1994年)