[出版記念:著者に聞く]ギリシャの作家カザンザキス『禁欲』訳者・福田耕佑氏

クレタ島に生まれ、旅を愛したギリシャの誇る世界的作家ニコス・カザンザキス(1883-1957)。映画化された『その男ゾルバ』、『キリストは再び十字架につけられる』、『最後の誘惑』といった代表作を通じて日本でも彼の作品に親しんだ人は少なくないでしょう。

そんなカザンザキスの重要な作品である『禁欲(Ασκητική)』と『蛇と百合(Όφις και κρίνο)』が新訳を得て今年2018年秋日本でオンデマンド版として出版されることになりました。今回GreeceJapan.comでは出版を祝し、翻訳者のお二方からお話を伺いました。


[ 著者に聞く:『禁欲』訳者・福田耕佑氏 ]

訳者紹介:福田耕佑(ふくだ・こうすけ)

1990年愛媛県生まれ。現在京都大学大学院文学研究科博士課程在籍・日本学術振興会特別研究員。
専門は現代ギリシア文学(主にニコス・カザンザキスとイオン・ドラグミスの文学)

リサーチマップ: researchmap.jp/milia.fk


どのようなきっかけから、ギリシャと関わりを持つことになったのでしょうか。

元々大学では西洋哲学史を勉強していましたが、哲学史や文化史を勉強していくうち、初めはギリシアから始まって、途中からギリシアは忘れられ、フランスやイギリス等西欧にスライドしていく記述が当然視されている日本の現状に違和感を覚えるようになったことが、ギリシアに大きく関心をもつようになったそもそものきっかけです。

そしてビザンツや現代ギリシア世界にも豊かな文化や思想家、アリストテレス・プラトン的な伝統の継続もあったことを学び、私たちが大学などで習う哲学史や文化史の記述も、西欧中心とまでは言わなくても、一面的なものだなぁ、と思うようになり、なら古代ギリシア以降のギリシアの、特に哲学や文学、思想について徹底的に研究しようと思い、その過程でカザンザキスに出会いました。

カザンザキスについてお尋ねします。翻訳にあたって、ギリシャを代表する作家であり、数々の名作を残した彼の著作から『禁欲』を選ばれた理由についてお教えください。

カザンザキス本人が、晩年に書いた自伝的な小説の『エル・グレコへの報告』やインタヴューの中で、自分の作品は『禁欲』の注釈に過ぎない、という旨の言葉を残しています。

そして研究者達や私の研究によると、カザンザキスは終生この『禁欲』で表された思想内容を保持し続け、彼の全ての作品の中で、この『禁欲』における考え方や用語を散りばめて執筆しました。ですので、日本の読者の皆様にこのカザンザキスの「信仰告白」(credo)であるこの『禁欲』をお届けしたいという意味で、『禁欲』の翻訳を刊行いたしました。

これまで様々なカザンザキス作品が翻訳されていますが、是非この『禁欲』を読まれたうえでもう一度お読みいただければと思います。「あっ、この作品のあの部分の記述は『禁欲』のここに由来しているのか!」と思われるかと思います。

昨年開催された「カザンザキス没後60年記念 市民フォーラム」に続いて、今年11月には国際カザンザキス友の会・日本支部のフォーラムを予定されておられますが、この11月のフォーラムについてお話しいただけますか。

今年のフォーラムは11月25日(日)に、昨年と同じく京都大学文学部地下大会議室で予定しています。詳しくは友の会のホームページをご覧いただければ幸いです。

今回は、まず国際カザンザキス友の会会長のヨルゴス・スタシナキス会長にご挨拶いただき、続いて私ども其原の『蛇と百合』と福田の『禁欲』の翻訳についての解説や苦労話、また裏話を披露します。
そして次に関西で現代ギリシア語教室エリニカを主宰している藤下幸子先生による「カザンザキスの『日本・中国旅行記』翻訳」に関するプログラムを用意しています。
この他、学術的な発表として、吉川弘晃(総合研究大学院大学文化科学研究科国際日本研究専攻)さんによる「カザンザキスと秋田雨雀〜東西の詩人をつないだ紅の祭典」を予定しています。これはカザンザキスが1927年のロシアでの革命記念式典に出席した際に日本の詩人秋田雨雀と出会っており、その時期のロシアにおけるカザンザキスの活動についてわかりやすく報告してくれる予定です。

ありがとうございました。

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永田 純子
永田 純子
(Junko Nagata) GreeceJapan.com 代表。またギリシャ語で日本各地の名所を紹介する  IAPONIA.GR, 英語で日本を紹介する JAPANbywebの共同創設者。

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