しがしが留学記:香川真司選手が街にやって来た!編

福田耕佑のテッサロニキ「しがしが」留学記:過去記事はこちらから!

こんにちは!ギリシアはテッサロニキで留学生活を送っている福田耕佑です。節分も終わってしまいましたが、いよいよギリシアではロックダウン四か月目に突入しようとしています。クリスマスも年末年始もなんだか味気なく駆け足に過ぎていき、基本的に自室に閉じ籠っての生活が続いておりますが、それでもやはり面白いことというものはあるものでして、何と、突然テッサロニキを代表するサッカーチーム、パオック(ΠΑΟΚ)に日本の大スター香川選手がやって来るというびっくりなニュースがありました。

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このΠΑΟΚ(PAOK)というサッカーチームに関しては聞き慣れない人が多いかもしれません。まずはこのチームについて少し説明いたします。このチームの正式名称はギリシア語でΠανθεσσαλονίκειος Αθλητικός Όμιλος Κωνσταντινουπολιτών(パンテッサロニキオス・アトゥリティコス・オミロス・コンスタンディヌポリトン)で、その大体の意味は「コンスタンティノープル人たちの全テッサロニキ・アスレチックチーム」で、何だか歯切れの悪い、分かったような分からないような訳になるのではないかと思います。元々は19世紀後半のイスタンブル(コンスタンティノープル)に住んでいたギリシア人たちのスポーツチームだったのですが、第一次世界大戦後の希土戦争の影響で多くのイスタンブルのギリシア人たちがギリシアに移民(或いは難民)し、そうして1926年にテッサロニキでパオックという名称でチームを建て直し、新たにサッカーチームを創設したところにその起源があるようです。私もはじめは二つの都市の名前が同じ一つのクラブ名に入るなんて不思議だと思っていましたが、こういう複雑なトルコとギリシアの歴史の経緯がチームの名前の中にあるのです。この記事の写真に載せたマスクにはチームの紋章となっている「双頭の鷲」があしらわれていますが、これもイスタンブル・コンスタンティノープルに由来するものでしょう。

ちなみに私が香川選手の入団の報を聞いたのは、彼がテッサロニキを訪れるわずか一日前のことでした。毎日地元のラジオを聞くようにはしているのですが、タイミングが悪かったのか或いはそもそも大々的にやってはいなかったのか、一度もこの報についてはラジオで聞いたことがありませんでした。1月26日の彼が到着した時間頃には、地元のラジオ(Radio Thessaloniki 94,5)が「香川選手が来たぞ~」という報をテンション高めで伝えてくれました。香川選手に大きくて好意的な期待がかけられているなぁと思わさせられると共に、日本でギリシアの音楽を演奏しているバンドの「ピラミッドス」も紹介され、彼らの音楽も流されました。「ピラミドス」はギリシアで有名なんだなぁと思いましたが、いつもコロナ・ウイルスの話ばかりしているラジオから日本の話や音楽が流れてきたことには、一日本人留学生として嬉しく感じました。

ところで他のヨーロッパや南米の国々でもそうなのかもしれませんが、ギリシアでもサッカー人気は高く、熱狂的に地元のチームやひいきのチームを愛好している人々がいます。

サッカーに関しては個人的に色々ありましたが、一つ興味深い体験をお話しいたしますと、イピロス地方のヨアニナに旅行に行った時の話ですが、朝早くテッサロニキからパオックのTシャツを着て出発したのですが、朝早めに宿に着いて宿屋の主人が私のパオックのTシャツを見て、「お前がここでそのTシャツを着ているのは致命的な不注意だ。俺はパオックが好きだから問題ないが、危ないから早くそのTシャツを着替えるように」と言われました。なんだか大袈裟な作り話のような気もしますが、本当の話です(笑)。ヨアニナでこんな感じだったのですが、私の見たところ特にパオックのファンの人々の中には日本の阪神タイガースファンのように、熱狂的にパオックを愛している人々がいるような気がします。パオックのサッカースタジオは「神殿(ナオス)」と呼ばれているらしく、他にも色々仰々しいスラングがあるようですが、これらも近々紹介したいと思います。

普段私はパオックのマスクをつけて街を歩いているのですが(笑)、確かにパン屋や市場に行くと、「日本人がパオックに来たね」と声を掛けられることが多く、少なくとも私の周りではかなり認知されているんだなぁと思います。残念ながらコロナ禍の中で思うように試合も行われていないようで、スポーツ・バーやサッカー観戦できるカフェも全て閉鎖されていることもあり街の人々の様子をつぶさに観察してみることもできていないのですが、街の中心部のアヤ・ソフィア教会にあるパオックのショップにも香川選手のグッズが入って来るのではないかと思いますし、また夏の留学生活の終了の前にはスタジアムにも足を運び、そこでの情報をお伝えしたいと思います!

なお補足ですが、今日お話しした イスタンブル(コンスタンティノープル)に住んでいたギリシア人の歴史に関しては、村田先生の『物語 近現代ギリシャの歴史』を是非お読み下さい。ギリシアに関心のある人も、また香川選手がパオックにいらっしゃったことを通じてテッサロニキの名前を初めて聞いたりまたギリシアに触れたりした方にも、とにかく全ての人に是非読んでいただきたい一冊です。

また20世紀前半までイスタンブルで生活し、希土戦争によってギリシア本国への移民(難民)を余儀なくされたギリシア人たちを題材にした文学作品には、ヨルゴス・テオトキス著『レオニス―コンスタンチノープルのギリシャ少年』があります。「スポーツクラブに付された二つの街の名前」が背負う歴史の重みをひしひしと私たちに教えてれくれる一冊です。

最後に先述の日本のバンド「ピラミッドス」の公式サイトはこちらです!

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それではみなさま、またお会いしましょう!Γεια σας (ヤア・サス、さようなら)!

福田 耕佑
福田 耕佑
京都大学文学部非常勤講師。専攻はニコス・カザンザキスを中心とした近現代ギリシア文学・思想史。主な著作に翻訳「ニコス・カザンザキス著 『禁欲』京緑社 2018年」、ギリシア語での著作に«ο Καζαντζάκης και η Ελληνικότητα» στο «Νίκος Καζαντζάκης, Η απω-ανατολική ματιά» (Επιμέλεια Έλενα Αβραμίδου, Ένεκεν, 2019 )。

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