ブースターは家族であり、ネオフェニックスそのもの~三遠ネオフェニックス・アソシエイトコーチ、ギリシャのエヴァンゲロス・マギラス氏独占インタビュー

B.LEAGUE・B1に属する26クラブの中でも、ブースターのアツさでは群を抜く三遠ネオフェニックスー古代ギリシャ語に由来する「ネオ/フェニックス」の名をもち、愛知県東三河地域と静岡県遠州地域の架け橋となり、共にスポーツを通じて成長し合うことを目指すとするこのクラブに、B.LEAGUE史上二人目のギリシャ人アソシエイトコーチとして就任したのが、エヴァンゲロス・マギラス(Ευάγγελος Μάγειρας/EVANGELOS MAGIRAS)だ。

ギリシャのクラブで数々の選手を鍛え上げた手腕を買われ、2024年8月~9月にスポットコーチとしてネオフェニックスに所属した後、2025-26シーズンにアソシエイトコーチとして戻って来たマギラス氏に、GreeceJapan.comは10月25日(土)・26日(日)浜松で行われた川崎ブレイブサンダース戦でインタビューを敢行。来日の理由から、ネオフェニックス、そして日本のバスケットボール界について、たぎる想いを率直に語っていただいた。

Interview: Junko Nagata/GreeceJapan.com


今日はインタビューを受けていただきありがとうございます。質問を考えていた時、そういえばあなたのチームは古代ギリシャ語に由来する「ネオ(neo)」と「フェニックス(phoenix)」から名付けられているではないか、ということに思い至ったのですが。

もしかしたら、これは何かの兆候だったのかも知れません-まず考えたのは、日本にこれほど多く存在するバスケットボールチームの中から、数々の偶然によって、古代ギリシャ語に由来する二つの言葉から名付けられたたった一つのチームに、今私は所属しているじゃないか、ということです。

ネオス(Νέος)とフィニカス(Φοίνικας)-フィニカス(フェニックス)は、灰の中から甦る存在です。チームのファンがこのことをどれだけ理解してくださっているかは私には分かりませんが、その名が示すとおり、このチームは灰の中から生まれ変わるメンタリティを持っており、だからこそ今日、そして昨日土曜日の試合のように、3人の選手が欠場した時でも、灰の中から生まれ変わり、前へと進む力を見つけ出し、この2つの重要な試合に勝利することができたのです。

ギリシャから約9,500km離れた場所でご自身のキャリアを続けるという決断を下されたことについてお聞きします。

実のところ、これまでにもギリシャ国外でコーチになる機会は2~3度あったのですが、私の子供が幼かったという家庭の事情と、ギリシャのチームの財政状況が非常に良好であったことから、最終的にその決断を下すことはありませんでした。

そうこうするうち昨年の夏、私のエージェントから、興味があれば、当時私がその名を知らなかったとある日本のチームに守備の戦術を教えるために1か月間日本に行ってみないか、というオファーを受けたのです。

これを聞いた時、とても良い経験になると思いました。日本という国についても、日本のバスケットボールについても、私は何も知りませんでしたし、提案を受けたその月は他に予定がなくオフでしたから、視野を広げるための良い経験だと思ってオファーを受けることを決めたのです。その時は、まさか次の年に日本のチームの一員になるとは想像もしていませんでしたけれどもね。

初めは3週間の予定で来日し、大野篤史ヘッドコーチとコーチ陣に会いました。大野ヘッドコーチは私の取り組みにとても満足してくれて、滞在を2~3週間延長してほしいと言ってくれたのです。もちろん、私にとっても素晴らしい経験でしたから、その提案を喜んで受け入れました。それ以来、お互い連絡を取り続けていました。

最高の日本人コーチと言える彼、大野氏と一緒に仕事できる私はとても幸運だと思っています。これほどクレバーで、24時間365日バスケットボールのことを考えていて、私にとってとても魅力的なバスケットボール哲学を持っているコーチに出会えるとは考えてもいませんでした。

私はコーチとしての彼を好ましく思っていましたし、実にいい関係を築くことができたと思っていましたから、年末に彼から一緒にチームを作っていこうと提案されたことには心から喜びましたし、この上ない光栄でした。何故なら、ここでお話ししたとおり、私は彼を最高の日本人コーチだと考えていますし、彼との協力関係は35年間の私のバスケットボールコーチとしてのキャリアの中でも最も素晴らしい経験でしたから。

日本のバスケットボールの組織運営の方法、試合や運営における考え方はギリシャのバスケットボールとは大きく異なっているのでしょうか。

ええ、多くの違いがありますね、良い点もあれば、そうでない点もあります。

日本のバスケットボールが成長を遂げたのは、間違いなくその組織力によるものです。日本人は、国民としても、文化としても、生まれたその日から、学校に通い始めたその日から、信じられないほど組織化されており、このことは彼らの生涯を通じて続きます。

東京2020オリンピックの後、バスケットボールへの関心が高まったその瞬間から、組織力に優れた日本人はわずか5〜6年でプロフェッショナルリーグとしても、それぞれのチームとしても、非常に高い水準の組織を作り上げ、組織力の面でヨーロッパの強豪チームを羨む必要はなくなったのです。

また、競技としてのバスケットボールに関しては、確かに大きな違いがあります。日本での試合は、ガード陣の多くが日本人であり、また走ることを好むため、テンポも攻撃も非常に速いスピードがあります。ヨーロッパのバスケットボールは確かにハイレベルですが、先制点を狙える可能性がある時はまずそれを実行に移し、そうではない場合でも非常に戦術的にプレーします。そこが日本とヨーロッパとの大きな違いです。

とはいえ、日本のコーチたちは年々飛躍的な進化を遂げています。ですから私は心の底から、ここ数年のうちに日本のリーグはユーロリーグのレベルに到達するであろうと確信しています。

ギリシャでは、あなたは選手個人の能力を引き上げるコーチングにおける第一人者として知られています。ギリシャと比べて、日本ではこの問題にどのように取り組んでいると思われますか。

まず、そのような高い評価をいただき心から感謝します。アスリートの個々の能力向上というテーマについては、ギリシャには私のほかにも優れたコーチがいますけれどもね。

二つの国の違いとは、それは組織とインフラの問題です。どのチームにも、将来的にそのチームでプレーできるようトレーニングされているあらゆる年齢の子供たちがいます。

例えばギリシャでは、プロフェッショナルリーグの男子チームの下には、ミニバスケットボールから児童、U14、U17の4~5つのレベルがあり、その後にU21、最後に男子プロチームが存在しています。一方日本では、選手は高校や大学リーグでの活動が主となりますが、学校ではギリシャのように日常的に活動するための基盤がありません。

ギリシャでは、12歳から14歳になると、子供たちは週に4~5回のトレーニングを行います。こうした子供たちの中から、体力に自信がある、またはレベルの高い子供たちに対し、経験豊富なコーチの指導のもと週1~2回の追加トレーニングを行うことで、個々のスキル向上を促します。これは日本にはない特徴です。将来プロ選手となることが期待される若年層の選手たちのレベルアップのために、日本のバスケットボール界の指導者たちは、この点について認識し、検討すべきであると私は考えています。

それに、人口1億2000万人のこの日本に、身長の高い子供がいないとは思いません。ギリシャ人は特段身長が高い民族ではありませんし、ロシア人でもセルビア人でもありませんが、1000万人の人口の中から身長の高い子供たちを見いだし、バスケットボールへと導いています。

ギリシャより人口の多い日本なら、確実に素晴らしい成果を上げることができるはずです。先ほども申し上げたように、今後数年のうちに、世界中の多くの人が日本のバスケットボール界へ羨望のまなざしを向けるようになるはずです。

大野コーチとチームが、私にこの「家族」の一員となる機会を与えてくれたことは、私にとってこの上ない幸運です。そのおかげで、この愛すべき文化と、美味しい日本の食べ物と、そして今まで出会った中で最も親切な人々と巡り合うことができました。来年も日本にいられることを願っています。

日本のコーチングについてどう思われますか。ギリシャや多くの国で見られるような、ベンチ内での意見の対立はあるのでしょうか。

私もイタリア人やスペイン人のように、地中海の民族の出身ですが、我々は一般的に外向的で、とても声が大きく、感情をとても強く表現します。とは言え、叫ぶことで感情を表現するのは、場合によってはあまり良いことではありません。

多くの場合、誤解されがちなのですが、我々のこうした行為は、自分たちの仕事に真剣に取り組むが故に起こります。我々はただ、コーチのもつ情熱とエネルギーを選手に伝え、選手らをコートに送り出そうと奮闘しているだけなのです。

一方、ここ日本では、コーチ陣はもっと穏やかで、激しいアクションを取りません。私はそこが好きで、また尊敬しています。何故ならそうすることによって、コーチは試合に集中でき、選手に緊張感を与えず、試合をうまく進めるために必要な自信を選手に与えることができるからです。コーチは冷静で落ち着いた印象を選手に与え、選手たちもまた冷静に判断を下すことができます。

バランスが大切なのです。感情を過剰に表すギリシャの地中海気質だけでも、何事にも動じる気配を見せない日本の気質だけでもうまくいきません。適切な基準は必要ですし、コーチ陣はチームを鼓舞するために声を上げる必要があるかもしれませんが、いずれにせよ私は常にバランスを重視しています。

日本での日常生活や日本人の第一印象はいかがでしょうか。日本で見つけられず、ギリシャを懐かしく思うものはありますか。

懐かしいものがあるとすれば-それはフェタチーズ(※ギリシャ特産の羊乳のチーズ。白色で柔らかく塩気が強い。)ですね!私はこれが大好きでギリシャでは毎日食べていたのですが、一昨日、チームのアシスタントが勧めてくれたレストランで、日本のとあるスーパーでフェタチーズが手に入ることを知りました。

来日前は、日本料理に不安がありましたが、正直に言いましょう、今ではすっかり大好きになりました。口に合わないものはほとんどありません。試合で知らない場所へ行くたびに新しい食べ物に挑戦していて、今では日本料理が大好きです。

日本の皆さんの文化、礼儀正しさ、清潔さが大好きです。特に、その礼儀正しさは偽りではありません。誰かが助けを求めたら、自分にやるべき仕事があったとしても、困っている人を助けるためならその手を止めてくれるのですから。

私は日本で礼儀を知らない人に会ったことがありませんが、それは日本で子供たちが育てられる文化的背景と密接な関係があります。そして、あらゆるものが目まぐるしく進化する中にあっても、日本人が今もこうした文化を家族や子供たちに継承し続けていることを、私は心から尊敬しています。

三遠ネオフェニックスのファンに、あなたからのメッセージをお願いします。

三遠ネオフェニックスのファンは本当に素晴らしい人たちです。昨年の「AICHI CENTRAL CUP(※B1愛知No.1を決めるトーナメント戦)」でもそれを実感しました。また、今シーズン最初の試合、B.LEAGUE 2025-26 プレシーズンマッチの川崎ブレイブサンダースとの一戦では、プレシーズンマッチ、しかも豊橋から遠い等々力で開催されたにも関わらず、試合を観に来てくれた三遠ファンの多さに私は本当に驚きました。

彼らは私たちを大いに助けてくれ、選手とともに試合を作り上げていこうという思いがあります。そんな彼らが拍手してくれたり笑顔を見せたりしてくれる姿を見ると私は嬉しくなってしまいます。こうして彼らはチームにエネルギーを与えてくれるのです。

ファンはチームにとって最も重要な存在であり、家族のような存在でもあり、ネオフェニックスそのものといってもよいでしょう。そしてチームの起源である会社・オーエスジーとブースターの皆さんとのコラボレーションによって、信じられないほど強力なファミリーが形成されているのです。

そして、この5月に左アキレス腱断裂と診断され欠場中の佐々木隆成選手を筆頭に、故障で離脱している主力選手が復帰することができれば、さらに多くのファンが試合に来てくれることでしょう。こうすることでファンさらに喜んでもらうことができ、チームを誇りに思ってもらうことができると信じています。

今日は本当にありがとうございました。あなたとチームの成功を心からお祈りしています。

[ 10月25日(土)・26日(日)川崎ブレイブサンダース戦フォトレポート ]

photos: Junko Nagata ©GreeceJapan.com

永田 純子
永田 純子
(Junko Nagata) GreeceJapan.com 代表。またギリシャ語で日本各地の名所を紹介する  IAPONIA.GR, 英語で日本を紹介する JAPANbywebの共同創設者。

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