2019年5月7日(火)ギリシャの中央考古学評議会である重要な会議が開かれた。
その会議の議題とは、パルテノン神殿内部のシコス―古代ギリシャ神殿におけるシコスとは、祀られた神または女神の像を安置する神殿内部の主要空間であり、パルテノン神殿のシコスには黄金と象牙で飾られたアテネ女神の立像が安置されていたと伝えられている―と呼ばれる空間の北壁の修復に関する案件であったという。
GreeceJapan.comは昨年3月、アクロポリスとその周辺区域で行われている修復作業に関するセミナーのために来日したギリシャ文化・スポーツ省‐アクロポリス修復局の責任者であるバシリキ・エレフセリウ氏にインタビュー。今回の会議について伺ったところ、神殿北壁の修復作業が正式に決定されたことを明かした上で、その経緯について次のように語ってくれた。
GreeceJapan.comアーカイブ:アクロポリスの修復プロジェクトに関するセミナー、東京で開催(Photos)
「パルテノン神殿は1687年(貞享4)ヴェネツィアのフランチェスコ・モロジーニがオスマントルコとアテネで戦った際、モロジーニの砲撃により壁の大部分が破壊されました。
しかしモロジーニの砲撃から135年後の1822年(文政5)独立戦争さ中のギリシャ人がトルコ人を神殿へと包囲した際、追いつめられたトルコ人は古代ギリシャ人が神殿の大理石を支える鉄材を錆(さび)から守るため鉛を利用していたことを発見し、この鉛を弾薬に転用するため、残されていた壁のほとんどを破壊し尽くしたのです。
こうして、ほんの数日のうちにトルコ人によって破壊された大理石は今でもパルテノン神殿に当時のまま残されています。これらの大理石の一部は既に神殿の修復のために利用されていますが、我々は今回の会議によりあらためて神殿北壁の修復作業に着手することを正式に決定しました。これは歴史的な一歩なのです。」
エレフセリウ氏によれば、この神殿北壁の修復作業はこれから15年間に渡って継続される予定で、作業にあたっては神殿の外部には足場等を設けず、作業はすべて神殿内部で行われるという。
破壊を免れ現代に残る北壁は全体の15%程度。今回の修復作業により、神殿に残されていた古代の大理石を用いて北壁の45%あまりが甦る予定だが、残る40%については修復に必要とされる古代の大理石が失われているため、古代神殿を建設するのに実際に使われた大理石を用いた修復作業は困難だとしている。
パルテノン神殿のシコスの壁の状態は箇所ごとに様々で、西側は大部分が当時の高さのまま現存しており、修復に関する研究は既に終了し、あとは残る修復作業を行うのみであるという。また東壁はこれまで一度も修復されたことがなく、現時点では古代の大理石を用いた修復に関する調査を継続中で、残る南壁については、修復のための調査が間もなく終了する予定。