
1899年(明治32年)に修好通商航海条約を締結して今年で120周年の節目を迎えるギリシャと日本。これを記念し両国で様々なイベントが開催される中、日本・ギリシャ修好120周年記念事業のひとつとして、また毎年2日間に渡って行われる「ラフカディオ・ハーン・デー」のイベントのひとつとして、舞(日舞、演劇)、鼓(音楽)、刀(殺陣、アクション)の3つのジャンルを複合させ1つの舞台構成を作り上げることを目的に立ち上げられた「舞鼓刀塾」の作品『芳一』が2019年6月26日(水)・27日(木)ギリシャ・レフカダ島で上演される。
レフカダ島で生まれ、日本でその生涯を閉じた小泉八雲‐ラフカディオ・ハーンの著した『怪談(Kwaidan)』に収められた「耳なし芳一」を題材に、日舞の芸術を下敷きにしつつ、印象的かつ現代的な衣裳、日本ならではの殺陣を取り入れた息もつかせぬ怨霊との闘いの場面、そしてライトセイバーをはじめとした映画やポップカルチャーの要素も随所にちりばめた『芳一』の公開リハーサルに GreeceJapan.com は訪問。「舞鼓刀塾」を主催する日本舞踊五條流師範・五條詠寿郎(えいじゅろう)氏から本作品にかける思い、そしてギリシャに対する深い愛情についてお話を伺った。
聞き手: Junko Nagata-GreeceJapan.com
今回は、どのような理由からギリシャでの公演を決められたのでしょうか。
私は今年で43歳になりますが、初めてギリシャに行ったのが約15年前、28歳くらいの時でした。初ギリシャがレフカダ島でしたが、この時レフカダ島では国際フェスティバルという世界中の民族舞踊団が毎年8月に集結するイベント(*International Folklore Festival of Lefkada)が行われる時期で、舞台経験のある知人から参加してみないかとお誘いを受けて訪れたという訳です。
これまでにイギリス、オーストラリア、中国、ロシア、ベルギー、フィリピン、グルジア(現:ジョージア)に行った経験がありましたが、圧倒的に僕はギリシャに惚れ込んだんです。やっぱり、この土地とか風、そしてレフカダ島が小泉八雲生誕の地ということで大好きになって…ついに毎年訪れるようになりました。初めは5~6名の少ない人数で行っていました。でもギリシャに惚れて惚れて…何とか毎年行きたいと思っていましたが、ちょうどその時ギリシャで我々のパイプ役を務めてくれていた方がお亡くなりになりまして、その後1~2年行くことが出来なくなりました。そこで、自分達で何とかしようと日本大使館に問い合わせてみましたところ、直接レフカダ市長に問い合わせていただき、市長も私たちの舞台を観たことがあるとのことで、改めて訪れることができるようになったのが5年前のことです。そこから僕は正直人生の生き甲斐と言ってもいいくらい、1年に1回ギリシャに行くのが楽しみでこの公演をやらせていただいています。
今回は小泉八雲、ラフカディオ・ハーンの「耳なし芳一」を選ばれましたが、今回数多くあるハーンの作品の中からこの作品を選ばれた理由は何でしょうか。
もともと小泉八雲は、日本の仏教や日本の思想の素晴らしさを西洋に伝えるため来日して取材をされていたということで、私たちの劇団では一度「仏陀」という作品をやらせていただきました。しかし地元の方から、やはりハーンの作品を演じて欲しいという声をいただき、初め「雪女」「おしどり」「耳なし芳一」のいずれを演るかで迷いましたが、「おしどり」は10年前に一度演じたことがありますので、いよいよ僕がとにかく好きな作品である小泉八雲の「耳なし芳一」を…10年間作品を作り続けて、そろそろ大作に挑戦する時が来たと思い、今回これを選びました。
今回「耳なし芳一」を演じるにあたって、衣装なども含め、ひとつの舞台作品としてどのような演出を目指されたのでしょうか。
これまで10年以上に渡って海外公演を行って来ましたが、初めこそ男は黒紋付、女は黒留袖のように、本当に古典的なシンプルな形で演じていました。しかしある時、たまたまギリシャのパレードに参加して、地元の人たちが物凄い派手な衣装で、派手なメイクで参加していて、それはもう心から楽しんでいて…その姿を見て、ただ単に堅苦しいものをやるということではなく、このハーン生誕の地であるレフカダで、何よりもまず、住んでいらっしゃる方々に喜んでもらえるような作品をやりたいということで、ライトセイバーを使ってみたり、見た目にも派手な殺陣を交えたりといった今回のやり方を選びました。
この劇団はいつ創設されたのでしょうか。
実は、この「舞鼓刀(まこと)塾」は、まだ出来て1年の若い劇団です。しかしメンバーは2002年に創設した御伽舞踊団「かぐや」から所属してくれています。時が経つにつれ、初めは若かった「かぐや姫」たちも30歳、40歳になり、そろそろかぐや姫という訳にもいかないな、ということで、じゃあ未来永劫ずっとみんなで舞台に立てるといいね、と「舞踊団那由他(なゆた)」と名を変え、そこから5年の月日が経ち現在の「舞鼓刀塾」という名前になりました。
初めは踊りだけだったのが、次第に太鼓と殺陣もやるようになりました。「舞鼓刀塾」という名、これは日本舞踊の「舞」に、太鼓の「鼓」、そして「刀(かたな)」を意味するもので、これらが三位一体となった舞台をやろうと「舞鼓刀塾」という名で合同会社を設立し今に至っています。
今回拝見して、演じられている皆さんのベースは日本舞踊なのではと感じたのですが。
はい、日本舞踊です。実は、踊っていた5人は皆日本舞踊五條流の名取や師範です。もともとはずっと日本舞踊をやっていて、あくまで日本舞踊がベースで、そこから和太鼓にも挑戦してみたり、殺陣も挑戦してみたりして今に至っているというところです。
地唄などを担当される方もおられるのでしょうか。
我々の公演にずっと参加していただいている藤本流の三味線の先生ですとか、日本音楽集団で篠笛などをやっておられるあかる潤さんですとか、いろんな方が舞鼓刀塾の活動に賛同してくださって、ゲストという形で出演していただいています。今回参加の3名の方々も今年で3年目になりますが、一度ギリシャに行って気に入ってくださって、それから毎年参加していただいています。
今回のギリシャ公演には総勢何名の方が参加されるのでしょうか。
今のところ出演者が15名、そしてギャラリー、我々の後援会ですとか応援してくださる方で我々の公演をレフカダで観たいという方を含め、合計27名で参加します。毎年平均で25名から30名で、ちょっと大所帯ですが。
日本のものをそのまま日本のものとして持っていくのではなくて、現代に合わせて、その中で日本の魅力を出していこうというところが印象的でしたが。
いままでずっと日本のものだけをやって来ましたが、やはり今、日本の文化の中でも、例えば先程申し上げたように2.5次元ですとか、コスプレですとか、ライトセイバーの集団ですとか、ライトを付けて動くパフォーマンスですとか、いろんなものを取り入れてやっていきたいなと思っています。自分が求めているのはインターナショナル・ジャパンとでもいいますか、日本舞踊の古典的なものは技術としてしっかりと習得しつつ、積極的に新しいものにも挑戦していきたいという思いでやっています。
ギリシャ・レフカダでの公演に続く予定はお決まりですか。
毎年「舞劇(ぶげき)」という形で、私自身が脚本を書いて、森鴎外の「山椒大夫」ですとか、芥川龍之介の作品、童話作家の小川未明(みめい)といった方々の作品をやっておりました。それで来年の4月か5月頃東京で、いよいよなんですけれども、明智光秀、これを舞劇で脚本を書いてやりたいと思っております。基本的にはホテルなどでの公演のほか、海外公演を行ったり、その他舞踊の教室の運営をしたりですとか、多岐に渡って活動をさせていただいています。
ギリシャの古典悲劇・喜劇や現代ギリシャの映画などを始めとした作品の中から演じるとすると何を選ばれますか。
やはり、ギリシャ悲劇や喜劇でしょうか。中でも私は神話が大好きで、不思議なことなんですけれども、日本の氏神様の話とギリシャの神話の話と大変に似ているところがあると思うんですね。宗教という形ではなく、文化としてとらえていきたいという気持ちがあるので、ギリシャの作品は必ずやっていきたいと思っております。その上で、日本の殺陣、日本のお扇子などを用いて、ギリシャの作品をやっていきたいと思っております。
5年、10年後の劇団の将来についてどのような計画をお持ちでしょうか。
今も少しずつ夢は叶えられているのですけれども、年に2回、6月のラフカディオ・ハーンのイベントとギリシャの8月の国際フェスティバル、これに必ず毎年参加できるようにしていきたいと。そうしていつか「舞鼓刀塾と言えばギリシャ公演だよね」という風に言われるような集団にしていきたいと思っています。他の国に行くということも考えらえるのでしょうけれども、自分は本当にギリシャを愛してしまっていますので、とにかく毎年毎年ギリシャ公演に行くのが自分の大きな人生の目標であり、目的であります。
この「耳なし芳一」はギリシャ公演後、その他の海外公演での上演予定はありますでしょうか。
今のところはその予定はありません。一昨年、去年とフィリピンやドイツに行きましたが、やはり小泉八雲の作品を海外で演じていきたいと思っております。シェイクスピアをはじめ様々な演目はありますが、実は日本の文化というものは、日本人にもいまだに浸透していないというか、そんな思いを持っています。そういったことからも、自分たちが恩返しとして日本の文化をどんどん世界に発信していける集団になっていきたいと思っています。
ありがとうございました。
[ 舞鼓刀塾・五條詠寿郎氏からのメッセージ(日本語)]
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