アナスタシス・ロイロスは、若きギリシャ人俳優の中でも最も愛され、また才能あふれる芸術家の一人だ。私たちは2021年に鈴木忠志の著書の翻訳を上梓した彼にインタビュー。日本を愛する彼からお話を伺った。
2019年から今年2022年まで、ギリシャで大ヒットしたレフテリス・ハリートス監督のテレビドラマシリーズ『アグリエス・メリセス(原題:野生の蜜蜂)』で主演を務め注目を集めたロイロスは、1988年ギリシャ北部の大都市テサロニキで生まれ育った。テサロニキ・アリストテリオ大学芸術学部の演劇部門で演技を学び優秀な成績で卒業。また同大学で演劇学も修めた彼は、今アテネに移り住み俳優として活動を続けている。
若手俳優とはいうものの、ロイロスは現在まで数多くの劇作品に主演、既に劇場で俳優として重要なキャリアを築いている。また、1994年ギリシャのアテネにおいて創設された国際的な舞台芸術の祭典「シアター・オリンピックス」の構想を提案したギリシャの誇る世界的演出家テオドロス・テルゾプロスと劇団SCOTの創立者・鈴木忠志の二人のメソッドを、「シアター・オリンピックス」が開催される富山県南砺市利賀村で学んだ経験を持っている。テルゾプロスは「シアター・オリンピックス」の国際委員長を、鈴木忠志は国際委員会のメンバーを務め、長年に渡る二人の友情はこれまでに数多くの名作を生み出している。
そんなアナスタシス・ロイロスは、2021年鈴木忠志の著作『文化は身体にある』をギリシャ語訳した『Πολιτισμός είναι το Σώμα(原題:ポリティズモス・イネ・ト・ソマ/文化は身体)』を上梓。今年6月6日(月)アテネで出版を記念したイベントが開催された。
GreeceJapan.comとロイロスとの対談の中で、日本を愛するロイロスは、子供の頃「宇宙海賊キャプテンハーロック」「マジンガーZ」「星銃士ビスマルク」「ジェッターマルス」「伊賀野カバ丸」といった日本のアニメを見ていたと告白。のち鑑賞した宮崎駿監督作品は、自分が最も愛する作品のひとつであり、自分の中に深い印象を残したと語っている。またロイロスは「大学生の頃、忘れようもない蜷川幸雄の『王女メディア』を観て、そこから日本の能や歌舞伎に興味を持つようになりました。ですから、常に私の視線は日本へと注がれていたと言えるのですが、私の師であるテオドロス・テルゾプロスが利賀に行って鈴木忠志氏のメソッドを学んでみないか、と提案してくれるまで、敢えて行動に移すことはありませんでした」として、どのようにして鈴木忠志氏との出会いに至ったかについて語ってくれた。
鈴木忠志の著作をギリシャ語訳する決断に至った理由について、ロイロスは次のように語っている。
「鈴木忠志氏の劇作の研究を始めた2014年、翻訳をしようという考えが生まれました。2017年はじめてこの考えを伝えたところ、『考え(スケプシ)』は 『絆(スヘシ)』に変わりました。私にとって、それは鈴木忠志氏の劇作と哲学を掘り下げる機会になったのです。こうしたことを学ぶことができたことに感謝するとともに、ギリシャの人々とこの素晴らしい世界を分かち合うことができることを嬉しく思います。」
今はもっぱら6月29日(水)に初日を迎えるエウリピデスのギリシャ悲劇『メディア』現代版の上演に向けてのリハーサルに励む日々を送っているロイロスの更なる活躍が期待される。