GREEK
日本にて、イオアニス・ダグリス氏 イオアニス・ダグリス氏はアテネ大学宇宙物理学教授にして、ギリシャ宇宙センター理事長、そしてアテネ大学天文台の所長を務めている重鎮だ。氏はこれまで日本をはじめ世界各国の大学や研究機関で研究活動を続けている。
大学教授として、また研究者としての活動から得た経験だけでなく、日本に対する想いについてお伺いし、これを読者の皆さまにご紹介する機会を得ることができたのは私たちGreeceJapan.comにとってこの上もない喜びだ。今回ダグリス教授が応えてくれたインタビューを読めば、氏の日本に対する確かな愛をお分かりいただけることだろう。
インタビュー: 永田純子(Junko Nagata – GreeceJapan.com)
日本でどのような活動を行って来られたのかお聞きしたいと思いま す。どのようにして活動を始められ、 そして続けて来られたのでしょうか。
まず始めに、このような機会をいただけたことに感謝します。 日本を愛する私にとって、 日本で得た私の経験についてお話できることは何よりも嬉しいこと です。
過去受けたDNA検査で日本との関係を示す何らかの結果が示されたとして も、私は驚かなかったことでしょう。19世紀後半から20世紀前半まであなた方の国、日本で暮らした著名なアイルランド系ギリシャ人の文学者・小泉八雲の日本に対する大きな愛を私は幾度となく思い出します。私に関して言えば、残念ながら日本語のいくつかのフレーズや基本的な単語を覚えることができた程度でしたが。
私が最後に日本に滞在したのはおよそ3年半ほど前、 名古屋大学で2017年(平成29) 9月から12月まで客員教授として教鞭をとった時のことです。
しかし、私と日本との精神的・職業的な繋がりは、 今から30年ほど前の1990年(平成2)東京大学が主催し、 箱根で開催されたある国際会議に参加するため初めて日本を訪れた 時にまで遡ります。 博士号の取得を目前にした若き科学者のひとりであった私にとって 、それは衝撃的な経験でした。赤祖父俊一(あかそふ しゅんいち)、西田篤弘(にしだ あつひろ)、上出洋介(かみで ようすけ) といった日本を代表する3人の伝説的な宇宙科学研究者と知己を得 たこと、そして何より、日本の文化、風俗、 食習慣に触れる機会を得たことまで、 25歳のひとりのギリシャ人にとってはすべてが印象的だったので す。この旅の中で、私は初めて日本の近代文学に触れました。 それは私にあまりにも大きな影響を与えた三島由紀夫の「春の雪」 です。この後、松尾芭蕉、川端康成、谷崎潤一郎、 村上春樹といった日本を代表する文筆家の作品に触れる機会を得る ことができました。
1990年の日本への初の訪問が、 現在に至るまで私と日本とを繋ぐきっかけとなりました。 こうして、1998年(平成10) には上出洋介教授の招へいにより、 名古屋大学太陽地球環境研究所(STELab) の客員准教授として、 愛知県豊川市にある分室の太陽風観測施設で3か月間研究を行う機 会を得たのです。この3カ月に渡る日本滞在は、 研究者として実りある素晴らしい日々でした。しかし、 当時まだ幼い3人の息子をおいて家族と離れて過ごした時間は、 私にとって大きなストレスであったことは間違いありません。 互いにどれほど寂しい思いを抱いたことか-息子の一人は「 こんなに長い間パパはいないんだもの、 もうお爺ちゃんになっちゃったかも!」 とまで言っていたといいます。それでも、東京、京都への訪問、 そして松本から日本アルプスを抜けて高山へ旅した経験は、 私を興奮させました。
その後、2000年、2007年、2013年、 2017年に日本で行われた学会に参加し、 このうち2013年と2017年には長男次男を帯同することが出 来ましたが、二人とも日本から大きな影響を受けたようです。
そして2017年(平成29)には再び特任教授として、 3か月間名古屋大学に着任しましたが、 この時には3人の息子たちも成長し、 妻が私とともに日本に滞在することが出来たため、 私は一人ではありませんでした。この、今のところ「最後の」 日本訪問が、 あらゆる面から私にとって日本との特別な繋がりの集大成であった と言えるでしょう。多くの人々と知り合い、その真摯さ、文化、 自然、伝統、伝統建築、そして美味に触れることができました。 紅葉が見事な秋の季節に京都のほぼすべての重要な神社仏閣と庭園 へ、また私が最も愛する黒い漆塗りの壁を持つ松本城、 白鷺城の別名を持つ姫路城、魅惑的かつ伝統的な村・白川郷、 そして歴史の証人たる広島・ 長崎に至るまで様々な地を訪れました。
日本での研究生活について、 どのような印象をお持ちでしょうか。
私の日本での研究生活は素晴らしいものでした。日本人の同僚は、 その高い専門知識とプロフェッショナル意識、細部への目配り、 そして共同作業への意欲が特徴的です。 2017年の3か月間の日本滞在で培った私たちの協力関係は、 今日に至るまで続いています。 当時の同僚であった名古屋大学の三好由純(みよし よしずみ)教授は、 昨年から私も協力しているある汎ヨーロッパ研究プロジェクトの外 部諮問委員会のメンバーとして活躍していますし、 また私も数週間前に日本人の同僚らが主催した学会に参加したばか りです。残念ながら、 新型コロナウイルスの感染拡大による制限のため、 オンラインでの開催となってしまいましたが。
宇宙研究の分野において、 ギリシャと日本の大学との間には協力関係があるのでしょうか。 また、こうした協力関係を推進し、 より強化するために何が必要でしょうか。
もちろんです。宇宙研究の様々な分野で、ギリシャ・日本の大学・ 研究機関では協力関係を構築しています。 こうした協力関係を強化する方法の一つとして、 共同研究プロジェクトや、大学院生と若い研究者との交流、 そして短期相互訪問プログラムなどに焦点を当てることが挙げられ るでしょう。私が理事長を務めるギリシャ宇宙センター( Hellenic Space Center)では、日本のJAXA( 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構) と締結した協力覚書を通じて、 こういった施策の可能性を探っているところです。
日本での旅の中で、 最も印象深く思い出されるものは何でしょうか。
何よりもまず、常に思い出されるのは相互尊重、謙虚さ、 自然とにじみ出る礼儀正しさです。また街の治安の良さ、 清潔さも思い出されます。 京都や嵐山の比類ない美しさの神社仏閣や庭園、 また香川県高松市の名勝・ 栗林公園やあまり外国人に知られていない四国など、 思い出すたび懐かしくてたまりません。 徳川家康をまつった日光東照宮も、とりわけ印象的な風景です。 この他にも、伝統的な愛媛県松山市の道後温泉、熊本・ 阿蘇の黒川温泉、そしてごく普通のホテルや旅館の温泉。 それに懐石料理から庶民的な居酒屋まで、 様々な場所で堪能できる日本の特別な美食- 高級寿司店から回転寿司まで様々に楽しめる刺身や寿司、 洗練された天婦羅、名古屋のひつまぶし、 金沢の魚市場のうなぎの炭焼き、地方ごとに特色豊かなラーメン。 そして最後に、そのスピードと正確さ、 過密なダイヤで新幹線が思い出されます。
ギリシャ宇宙センター(Hellenic Space Center)について、センターの理事長であるあなたから、 その目的について教えていただけますか。
ギリシャ宇宙センターは比較的最近設立された組織です。 設立に当たって、 人材配置のフェーズに進むために必要となる様々な事務手続きに長 い時間がかかりましたが、 この夏までにギリシャ宇宙センターでその業務を遂行することが許 される約15名のスタッフを確保できればと考えています。 センターの主要な施策は国の宇宙政策と戦略的行動計画の策定、 産業界・大学・研究機関共通の目標の策定と調整、 宇宙関連施策の管理及び具体化、 そして宇宙関連の問題に対する国の継続的な支援です。
短期・中期的な主要目標としては、 選ばれた宇宙関連施策における産学連携の促進と相乗効果の達成、 我が国におけるノウハウとスキルの成長の促進、 そして若い研究者らに対する支援と国際協力の推進が挙げられるで しょう。
日本からあなたが得た経験は、 ギリシャ宇宙センターの活動の中で、 ギリシャと日本との協力関係に貢献しているのでしょうか。
私が日本の同僚と育んだ経験と絆は、 ギリシャ宇宙センターの活動の枠組みにおいて、 二国間の協力関係の更なる発展のために具体的な形で貢献するもの と確信しています。
ありがとうございました。
・ダグリス氏が日本を旅して撮影した印象的な写真の数々はギリシャ語版ページから!
・ダグリス氏が撮影した写真を紹介する過去記事:ギリシャは秋だって魅力的!~紅葉の季節に訪れるギリシャ~
・ダグリス氏の詳細なプロフィールはこちから