GreeceJapan.com独占インタビュー:カミル・グンゴール~自立生活、障がい者の旅行、そして日本

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カミル・グンゴール(Kamil Goungor)は障がい者の権利を訴える活動家であり、またギリシャ初の障がい者トラベルブロガーだ。これまで訪れた23カ国の中でも最も愛する国は日本であり、また日本は障がいをもつ旅行者を支える様々なシステムが整った国であると語っている。

そんな31歳のカミルは、ポーランド系のルーツを持ち、生まれたアテネで生活を送っている。アテネのパンティオン大学でジャーナリズムとコミュニケーションを学んだ後、ヨーロッパ自立生活ネットワーク(European Network on Independent Living – ENIL)で働く彼は、欧州障がい者フォーラムの青少年委員会議長として、またギリシャ自立生活組織「i-living」と子どもたちが自らの意見を述べる権利を支援する「First12」の共同創設者としても活躍している。

仕事と活動のために頻繁に旅行しつつ、旅そのものが好きでたまらないと語り、その様子を自分の旅行ブログ「The Trawheeler」につづるトラベルブロガーとしても知られるカミルにGreeceJapan.comは独占インタビュー。ギリシャにおける障がい者の状況から自らが旅から得た様々な体験まで、ユーモアを交えつつ率直に語ってくれた。

インタビュー:永田純子(Junko Nagata)


あなたが共同設立者であり、また事務総長も務めるギリシャの自立生活組織「i-living」について、設立の目的と具体的な活動についてお話いただけますか。

「i-living」はギリシャ初の自立生活組織として、私を含めた6人の若い障がい者の必要から設立された組織です。海外における実情や、海外で障がいをもつ者がどのように生活しているかを学び、ギリシャではまだ知られていないアイデアを私たちの国に持ち込み、公共の議論の俎上に乗せることを目的としています。障がいを持つ者が個人的な介助者のような適切な支援と、脱施設化やアクセシビリティといった正しい条件により、障がい者自身が自らの生活をコントロールし、どのように生きていくかを自分自身が決めるための選択肢を得つつ、社会の中で自立し生産的に生きていく―つまりギリシャで、そして例えば日本のような海外で、障がいを持たずに生活している人々が行っているのと同じように生活していくことを目指しています。私たちの目的は、様々な活動とパートナーシップを通じて自立生活の哲学を社会的・政治的リーダーシップから障がい者自身やその家族まであらゆる方向に広め、将来的にこれをギリシャに適用することなのです。

同様の目的をもつ日本の組織とは協力されていますか。

「i-living」ではこれまでそういった協力関係を持つに至っていませんが、私が働くヨーロッパ自立生活ネットワーク(ENIL)では東京や京都の様々な自立生活組織と協力関係を築いています。例えば日本から自立生活組織のメンバーが2年に一度開催されている自立生活のための一大イベント「Freedom Drive」に参加するためブリュッセルを訪れましたが、すべての参加者にとって、また障がい者にとって素晴らしいイベントとなりました。ここで知り合ったうちの何人かとは今でも個人的に連絡を取り合っています。

ギリシャは障がいをもつ市民に優しい国でしょうか。

ごく一般的な回答としては「それほどでもない」と答えるのでしょうが、これは比較の対象をどこに置くかによって変わってきます。例えば日本や北ヨーロッパと比較すればギリシャは相当遅れていますが、バルカン諸国やアフリカのような地域と比較すればまだ良い状況であると言えるでしょう。ギリシャには障がい者の自立生活がなく、特に交通機関におけるアクセシビリティ対応が遅れています。すべては我々の社会が障がいをもつ市民を、そしてこうした社会の考え方をどう捉えているかに起因していると私は考えています。残念ながら私たちはいまだに同情と慈善の対象であり、可哀相な人間であり、介護と医療を必要とする運命に打ちのめされた者であると見なされています。しかし我々が求めているのはただ自分自身の権利であり、障がいをもたない市民と同様に生活し、接してもらうことなのです。こうした課題はあるものの、状況は絶えず改善されてきていますし、またこれからも改善され続けることでしょう。そのためには、我々障がい者も前に出て、私のようにこうした活動が可能な者から施設などで生活し外出が困難な者まで、持てる権利を主張せねばならないのです。

あなたはギリシャで最初の障がい者トラベルブロガーとして知られていますね。あなたのブログ「The Trawheeler」にはその目的として、より多くの人々が旅し世界を知ることを促進することと書かれていますが、おそらくその目的はもう達成されているのではと思います。
ブログを読み、あなたがいつも書いているように旅に貪欲な姿を目にして、私たちも旅をしたいという欲求に駆られました。そこでお尋ねしますが、これまで何カ国を訪れましたか?また、どの国が一番気に入ったか、そしてどの国が障がいをもつ旅行者にとって旅しやすいか教えてください。

私のブログを高く評価してくださってありがとうございます。確かに私は、私が知る限りギリシャ初の障がい者トラベルブロガーですが、このブログは障がいをもつ人だけでなく、すべての人に向けて書いているものです。これまでに世界3大陸の23カ国を訪れましたが、最も愛するのは日本です。日本に訪れるのは幼い頃からの夢だったので、実現した時は嬉しくてたまりませんでした。もちろんどの国にも素晴らしいスポットがあり、私も訪れたあらゆる場所で特別な体験をしてきました。障がいをもつ旅行者に関して言えば、やはり日本が一番ではというのが私の考えです。もちろん多くのヨーロッパ諸国やアメリカも非常に素晴らしいレベルにあると思います。

障がいをもつ旅行者に勧めない国はありますか。

例えばバルカン諸国のように、障がいをもつ旅行者にとって大変な困難を伴う国はありますが、私が勧めない国というものはありません。あらゆる地域にそれぞれの特色があり、行くことを望み、それが可能かは各々が判断することなのです。いずれにせよ、自分自身が試みなければ何かに対し確信を持つことなど出来ないのです。私自身について言えば、個人的にはどんな場所にでも行きたいと思っていますし、それを望む人を勇気づけたいと考えています。先ほどギリシャにおける状況でお答えしたように、例えばベネチア、カンボジア、マチュピチュといったこれまで訪れることが困難だった地域をはじめ世界中で、障がいをもつ旅行者に係る状況は改善され続けています。

障がいをもつ旅行者にとって、旅行する際どのような困難があるとお考えですか。

まずすべての障がい者にとって、障害となる点はそれぞれ異なるということと、同じ障がいをもつ二人の人間がいたとしても、それぞれに必要とする支援は異なり、直面する問題も異なるということを私たちは理解せねばなりません。例えば私の場合には、まず交通機関と宿泊施設へのアクセスが最も重要となります。これが聴覚障がい者であれば、コミュニケーションなどが問題となることでしょう。このほかに重要となるのは、障がい者が旅行する際の高いコストです。まず多くの障がい者が介助者を必要とすること。これにより交通費、食費といった費用が倍増します。また特殊な設備を持つタクシーやアクセシビリティに対応した宿泊施設といった障がい者が必要とするあらゆるサービスはそもそも割高です。この他にも、情報不足は最も重要な問題の一つであり、誰もが私たちを購買力の高い観光客であると考えているわけではないのです。

日本への旅についてのブログ記事を拝見しました。最も気に入ったものは何でしたか?また、旅行中あなたを悩ませたことはありますか。

日本への旅は素晴らしいものでした!他者への礼儀と尊敬、そして一貫性を持った社会。犯罪がなく、清潔であり、社会システムがよく機能しているという事実。またアニメやマスコットに代表されるように、日常のあらゆる場で、あらゆる年代で見られる「幼児性」。優れたアクセシビリティがあり、決して私を違う星から来た宇宙人のように見たりもしません。私は日本の現代と伝統がミックスされたところが好きなのですが、中でも浅草のような活気あふれる場所や、鎌倉のように静寂に包まれた場所が大好きです。マイナスの面を挙げるとすれば、英語を話す人が少ないということ、そしてほとんどすべての人がどんな時でも手にスマートフォンを握りしめているということでしょう。でも、スマートフォンに関しては地球上のどこに行っても私をイライラさせるのですけれどもね。

日本への旅を考えている障がいをもつギリシャ人旅行者に何かアドバイスがありますか?

わが友、ギリシャの旅人たちよ、何も考える必要はありません。日本は私たちがここで語りあったように、あなたが知りえる中でもきわめてアクセシビリティの高いもっとも特別な国の一つなのですから。古いものが新しいものと結びつき、この世のあらゆるものがあり、そして決して飽きることはないでしょう!もし出来れば、日本語の表現をいくつか覚えていくといいでしょう。あなたにとって役に立つということもありますが、何より外国の旅人が発する日本語を聞き、それは喜んでくれる日本人の笑顔を堪能する幸せを得ることが出来るのです。旅するに決して安く済む国ではありませんが、それでも破産せずに楽しむことが出来るのは確かですよ!

では逆に、ギリシャへの旅行を考えている日本人に対して、何に直面することになるか、特に何に気を付ければよいか、旅行中に戸惑わないためにどのような事前準備をすればよいのか教えていただけますか。

親愛なる日本の旅人よ、私はギリシャを訪れ、素晴らしい体験をされたあなたの国の方々を数多く知っています。アクセシビリティは完璧ではありませんが、あなたに小さな冒険の心構えさえあれば、少なくともアテネやその他のよく知られたスポットでは十分に楽しむことが出来るでしょう。天候はほとんどの季節で良く、食べ物は最高で、そして英語が通じます。日本と同じように、ギリシャにはたくさんの見どころがあり、決して飽きることはありません。文化的にはよりくだけていて、日本のようにキッチリと物事が進むわけではないので、もしあなたがスマートフォンと財布を手に帰りたいと思うなら目がいくつあっても足りないと感じるかも知れませんね。

あなたがブログに書いた「トリップ・バケットリスト Top50」を読みましたが、とても面白いですね!このインタビューを終えるにあたって、障がいをもつ人の日常生活に支障を与えないために、各々がすべきことと考慮すべき点について、あなたにリストを書いていただければと思います。

うーん、とても興味深い質問ですね。何て答えたらいいか…まとめるとすれば、こんなところでしょうか。

  • 障がいをもつ人に対し、そのほかの人に接するのと同じように接してください。子どもに接するようにではなく、また物事の分からない者に接するようにではなくね。
  • あなたが何かをしようとする時には、異なるニーズを持つあなたとは違う人々がいることを考慮してください。
  • 違いに対して心を開いてください。恐れることも、恥ずかしく思うこともありません。
  • わからないことがあれば、介助者でなく、障がいをもつ相手に直接尋ねてください。決して悪いことではありません。
  • 建物のスロープの前に駐車したり、コンサートなどの際に障がい者の前に立つなどして、障がい者の行動を制限しないようにしてください。

ありがとうございました。

[ カミルの日本旅行の様子を写した写真は↓こちら↓から! ]

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永田 純子
永田 純子
(Junko Nagata) GreeceJapan.com 代表。またギリシャ語で日本各地の名所を紹介する  IAPONIA.GR, 英語で日本を紹介する JAPANbywebの共同創設者。

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