GreeceJapan.comで「しがしが留学記」を連載し日本・ギリシャ双方から好評を博した大阪大学人文学研究科/日本学術振興会 特別研究員(PD)の福田耕佑氏が、ギリシャの誇る世界的作家ニコス・カザンザキスをテーマに執筆した博士論文を書籍化した『ニコス・カザンザキス研究~ギリシア・ナショナリズムの構造と処方箋としての文学・哲学』を今年9月に上梓する。
カザンザキスの『禁欲』『饗宴』を翻訳するなど、日本におけるカザンザキス研究の若き第一人者として活躍する福田氏は、今回の博士論文の書籍化についてGreeceJapan.comに対し次のとおりコメントを寄せている。
本書の帯にはScandalizing Greeceという少々不穏当な言葉を入れていただきました。なかなか和訳しづらいですが、結局「ギリシア・スキャンダル」ぐらいのカタカナになるかと思っています。これはカザンザキスのキリスト論と彼の映画論を扱ったScandalizing Greece ?という書籍のタイトルから取りました。カザンザキスはキリスト教会では受け入れがたいキリスト像を提示したことで断罪や破門、また追放という憂き目に遭いましたが、カザンザキスが思い描いたギリシアやギリシア思想の伝統の理解もまた「スキャンダラス」なものだった、ということを明らかにしようとしたのが本書でございます。本書で明らかにしようとしたギリシア像には、日本では馴染みの無い、現代のギリシアで理解されている古代や中世のギリシアが含まれており、また日本やロシアなどの東方にある国々でカザンザキスの体験が反映されていることを論じました。
日本では古代ギリシアや中世ビザンツ・ギリシアに関する研究が豊富に蓄積されており、本研究もその日本での偉大な先人たちの研究に基づくものです。このScandalizingというのは決して先行する研究を軽視しようというものではありません。それでも日本においては「ギリシア哲学史」や「西洋哲学史」という枠組みでニコス・カザンザキスが論じられることはなかなかありませんので、弊書のタイトルに「哲学」という言葉を敢えて入れました。「ギリシア哲学史」というと古代の哲学の方が連想されますし、「世界哲学史」という枠組みで考えた時でも、中世や現代のギリシア哲学はなかなか論じられる機会が少ないのではないかと思います。本研究を通して「ギリシア」が内に含む地理の広さと時間の長さを考え直すことに繋がり、また古代ギリシアや中世ギリシア、また西欧の思想や哲学から影響を受けたカザンザキスのギリシア哲学と文学の魅力を伝えられていたならば幸いです。
『ニコス・カザンザキス研究~ギリシア・ナショナリズムの構造と処方箋としての文学・哲学』
福田耕佑・著
発行:松籟社(しょうらいしゃ)
A5判 416ページ 上製
定価 4,000円+税
ISBN978-4-87984-455-2
発売予定日: 2024年9月25日
初版年月日: 2024年9月15日
目次:
序論
第一部 ニコス・カザンザキスに至るギリシア思想史、文学史の背景
第一章 古代ギリシアから近代・オスマン統治期に至るギリシア意識の概観
第二章 近現代ギリシア啓蒙主義と民族意識の形成
第三章 一九世紀後半におけるギリシアの東方性への着目と反西欧主義
第二部 ニコス・カザンザキス
第四章 青年期のカザンザキスのナショナリズムと政治活動
第五章 独墺期におけるカザンザキスの脱ナショナリズムと脱西欧化の思想
第六章 思想的主著『禁欲』分析
第七章 カザンザキスのロシアでの活動と東方に関する思想
第八章 カザンザキスのスペイン体験と東方として理解されるスペイン
第九章 カザンザキスと極東体験
第一〇章 カザンザキスのギリシア像─古代ギリシアと日本の比較を中心に
第一一章 カザンザキスによるギリシアの西方性の探求と古代ギリシア
第一二章 第二次世界大戦期におけるカザンザキスのギリシア性探求
第一三章 ギリシア内戦期におけるカザンザキスのギリシア性探求
第一四章 終論