
ギリシャ第二の大都市・テッサロニキのアリストテリオ大学哲学部で訪問研究員生活を送る福田耕佑が、ギリシャ滞在生活を通じた留学記をつづる「しがしが留学紀」。現地で生活する筆者ならではのテーマとして、キリスト教の重要な祭日である復活祭(パスハ)にまつわるギリシャ独特の「キラ・サラコスティ」を紹介した第8回に続いて、今回第9回ではギリシャ語を学ぶ方々のための教材について紹介します。GWはおうちでギリシャ語学習!?
・福田耕佑のテッサロニキ「しがしが」留学記:過去記事はこちらから!
Γεια σας(ヤ・サス)! 皆さん、こんにちは。ギリシア・テッサロニキに留学中の福田耕佑です。ギリシアではいよいよ復活祭が近づき季節もどんどん華やかになっていっていますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
コロナ禍の中で在宅時間が増えドラマを見たり料理したり、中にはギリシア語の勉強を始められた方もいらっしゃるのではないかと思います!日本でも様々な現代ギリシア語の教材が発売されていますが、今日は初級を終えた方向けに、ギリシアで見つけた「読解」に関する教材を紹介させていただきたいと思います。
まず既存の日本で販売されている読解の教材を紹介いたします。日本語とギリシア語での対訳と解説の施された教材で、大学書林より発売された福田千津子先生の『現代ギリシャ短編集』(1990)と『対訳キリストは再び十字架にかけられる-現代ギリシャ語を読む』(1994)があります。これらの教材には、近現代ギリシアの言語問題において重要な役割を果たしたヤニス・プシハリス(1854~1929)や三十年世代の代表的な作家として評価されるΜ. カラガーツィス(1908~60)、そして私が専門としているニコス・カザンザキス(1883-1957)の作品が収録されています。これらの優れた教材を用いて実際にギリシア文学の良質な作品を堪能しつつギリシア語を学ぶことができますが、高名な文学者たちが用いる言葉がそのまま登場しており、中にはもちろん難しい言葉や活用、そして表現や言い回しが見られ、初級を終えた人が学ぶのには少し困難があるかもしれません。
GreeceJapan.com「ギリシャを代表する作家カザンザキスの『饗宴』、福田耕佑の日本語訳で出版」
続いては、アナトリコス(Ανατολικός)という出版社から出版されたマルガリタ・ヨアニドゥ(Μαργαρίτα Ιωαννίδου)氏の教材を紹介したいと思います。教材のラインナップは以下で紹介しますが簡単に言いますと、近現代ギリシア文学の名作を外国人の学習者に読みやすいギリシア語に翻案することで作られた読解のための学習教材です。この教材の目的は「第二外国語としてのギリシア語の教授」にあり、B1からB2レベルのギリシア語力を有する生徒の読解練習に最適化されています。つまり、元の文章は芸術のため難しい単語や難解な構文、そして言い回し等が使われていますが、このような難読表現をギリシア語を学ぶ生徒の理解しやすいギリシア語にパラフレーズしてくれています。そして翻案においては学習者の便宜を図り過度に難しい単語や表現は避けられ、それでも難しいものには脚注に解説が付されています。中には「原文の文章を書き替えるという行為はどうなんだ?」とお思いになる方もいらっしゃるかと存じますが、やはりいきなり原文を読むのは難しいものがあり、何よりもこの翻案を通して文学史上重要な作品を一冊読み通すことが出来るという点は極めて重要だと考えています。それでは以下でラインナップを紹介しますと、
・ピネロピ・デルタ『名前の無いお話』
(ΠηνελόπηΔέλτα, «Παραμύθι Χωρίς Όνομα»)(2012)
・ヨルゴス・ヴィジノス『私の兄弟を殺したのは誰だ?』
(Γεώργιος Βιζυηνός, «Ποιος ήταν ο Φονιάς τουΑδελφού μου»)(2017)
・ヨルゴス・ヴィジノス『生涯の唯一の旅』
(Γεώργιος Βιζυηνός, «Το Μόνο της Ζωής τουΤαξίδου»)(2018)
・アレクサンドロス・パパディアマンディス『諸国民の商人たち』
(Αλέξανδρος Παπαδιαμάντης, «Οι Έμποροι των Εθνών»)(2019)
・アレクサンドロス・パパディアマンディス『女殺人者』
(Αλέξανδρος Παπαδιαμάντης, «Φόνισσα»)(2020)
・コンスタンディノス・テオトキス『名誉と金』
(Κωνσταντίνος Θεοτόκης, «Η τιμή και το χρήμα»)(2021)

上記の六作品がヨアニドゥ氏の手により初級から中級に向けて進んで行く学習者に最適なギリシア語で翻案されています。特にパパディアマンディスの『女殺人者』はギリシア文学史の中で重要な地位が与えられている作品ですが、英語からの翻訳にはなりますが日本語訳も存在します。口語と文体の混ざった独自の文体で書かれた彼のギリシア語原文は格調高く美しいですが読解には難しいところが多く、翻案を通してでもギリシア語で一冊読み通せることは学習者にとってありがたいことだと思います。

またヨルゴス・ヴィジノスの二作品はそもそも原文が文語で書かれており、口語の知識だけでは読むことができませんが、特に『私の兄弟を殺したのは誰だ?』は文学作品として評価が高く是非読んでいただきたい一冊です。値段もそれぞれ10ユーロを切っており、安価にギリシア語学習者が語学の学習の中でも優れた文学作品を味わえるように設計されており、粋な計らいだと思います。

今回は以上になります。どのような語学を学ぶにしても自分にあった教材を探すのは楽しくも難しいものでありますが、ギリシア語学習の一つの選択肢としてお勧めさせていただければと思います。なお、greekbooks.grのサイトなどを使えば、ギリシア語の本を日本に郵送してくれますので是非試してみてください。そして日本でもギリシア語の学習者や現代のギリシア文学古典作品の読者が増えていけばいいなぁと思います。それでは今回はこの辺で、Γεια σας(ヤ・サス / さようなら)