謎のボードゲーム『コンスタンディノーポリー』で遊んでみた

ボードゲーム『コンスタンディノーポリー』パッケージ

ギリシャ第二の大都市・テッサロニキのアリストテリオ大学哲学部で訪問研究員生活を送る福田耕佑が、ギリシャ滞在生活を通じた留学記をつづる「しがしが留学紀」も今回で第3回!現地で研究生活をおくる彼が日本にお届けするのは、観光地として有名なアヤ・ソフィアをその懐に抱く街・コンスタンディヌーポリをボードゲーム化した、その名も『コンスタンディノーポリー』についてです。お楽しみください!

・福田耕佑のテッサロニキ「しがしが」留学記:過去記事はこちらから!


[ 注:写真は記事の最後に掲載しています。]

皆さん、こんにちは。ギリシアはテッサロニキに留学中の福田耕佑です。いよいよ夏も終わろうとしておりますが、まだまだ暑い日が続いているような気もすれば、だいぶ涼しくなってきたような気もします。コロナ・ウイルスの影響で今尚教会やスーパーなどの室内でのマスクの着用義務やイベント人数の制限なども続いていますが、かなり「日常」を過ごしているなぁと感じています。

今回は、街中で見かけて衝動買いをした、謎のボードゲーム『コンスタンディノーポリー』についてご紹介させていただければと思います。このギリシアのSKANTZOCHIROS社製のボードゲームのタイトルは、ギリシア語で“ΚΩΝΣΤΑΝΤΙΝΟPOLY”であり、ラテン・アルファベットでは“CONSTANTINOPOLY”となっています。早い話が、イスタンブルの昔の呼称の一つでいわゆる「コンスタンティノープル」と有名なボードゲームの「モノポリー」が掛け合わされた名前で、「コンスタンティノープル(現イスタンブル)の歴史と名所を題材にしたモノポリー」です。ちなみに現在でもギリシア人はギリシア語でこの街を呼び表すのにイスタンブルではなく「コンスタンディヌーポリ」と呼んでいます。私は京都大学では「二十世紀学」(現メディア文化学)という名前の日本を含む世界の現代文化やポップカルチャーを研究する学科に所属していまして、今のギリシアの「カルチャー」の一側面をお伝えするつもりで紹介させていただきます!まずはこのゲームの外側から見ていきましょう。

Photo-02

箱とボードはこのような感じになっています。この都市が現在のギリシア人にとって自国史の重要な一時代であるビザンツ帝国(東ローマ帝国)の都だったこともあり、様々なギリシアの歴史的出来事や多くのモニュメントが散りばめられており、他にもその数とほとんど同じ分だけのオスマン時代の出来事とモニュメントが見られます。箱の真ん中に大きく描かれているのは、何といっても「アヤ・ソフィア」です。私たちも高校世界史の中でこの建造物についてその名を学び、現在でも多くの観光客を惹きつける現イスタンブルの重要な観光地として有名ですが、このゲームの中ではギリシア正教の大聖堂でもあり、またモスクでもあります。では一部にはなりますが、さっそく中身を見てみましょう!

Photo 03

ここではこのゲームの細かいルールの説明は省略しますが、基本は一般的なモノポリーのルールと同じです。この都市の建築家になった私たちは、サイコロを振ってマスを進み、マスに書かれたイベントをこなしつつ、そこに書かれた敷地を買ってPhoto-03にある「塔」や「ドーム」などの駒をたくさん建てていきます。駒もなんだかカラフルで可愛いらしいですね。ではどうやってこの建物を建てていくのかと言うと、それはゲームの中でやりとりされる、Photo-03のお金を用います。ここで面白いのは、赤のビザンツ帝国のお金と青のオスマン帝国のお金に分かれていることだと思います。「ビザンツ帝国に関するものはビザンツの赤いお金でしか売り買いすることができず」、「オスマン帝国に関するものはオスマン帝国のお金でしか売り買いすることができない」のが原則です。たとえば「アヤ・ソフィア」のようにキリスト教の大聖堂でもあってイスラム教のモスクでもあった(ある)モニュメントは、「ビザンツとオスマンの両方のお金で売買する」ことになります。ですので、例えばビザンツのお金はいっぱい持っていてもオスマンのお金を持っていないと、オスマンのお金が払えないが故に破産してゲームから退場するといったことも起こります。ビザンツとオスマンのお金とモニュメントをバランスよく管理する必要があり、二重の戦略性の要求される、「コンスタンディヌーポリ」という名前を使って単にネタに走ったのではない、面白いゲームにちゃんと仕上がっています(笑)。では次に、ボードのマスに書かれた建物や歴史的なイベントを説明してくれるカードを見ていきましょう。

Photo-04, 05:コンスタンディヌーポリ建設
Photo-06, 07:アヤ・ソフィア
Photo-08:スルタン・アフメット・ジャーミー(ブルー・モスク)
Photo-09:オリエント・エクスプレス
Photo-10:ケマル・アタテュルクによるアンカラへの遷都

これらがマスのイベントや歴史的建造物を紹介してくれるカードです。デザインがきれいなだけでなく、何と、ギリシア語・英語・フランス語で書かれていますね。表は主に出来事や歴史上の建造物の説明が書いていまして、ここの説明で私たちは遊びながらこの街の歴史を学ぶことができるだけでなく、英語やフランス語、そしてギリシア語の勉強をすることができます。言い忘れていましたが、ルールの説明も含め全て三か国語で書かれていますので、ギリシアのボードゲームですが、ギリシア語が読めなくても遊ぶことができます!裏は実際にこのマスがゲームの中でどんなイベントを起こすのか、或いはどんな商取引を行わせるのかを説明します。

そしてこのカードは大きくイベント・カードと歴史的建造物・カードの二種類に分かれています。イベント・カードの書いているマスは購入することができませんが、プレーヤーの財産が減ったり増えたりするイベントが、歴史的上実際に起こった出来事になぞらえられて発生します。532年のニカの乱や1204年の第四回十字軍襲来などのマスにとまりますと、ご察しの通り「えらい(とんでもない)目」に遭います(笑)。

もう一種類が歴史的建造物・カードですが、このカードは買うことができます。そして買ったところに更に「塔」や「博物館」などの駒を建てていき、このマスにとまるプレーヤーから通行料のようにお金を徴収していきます。先ほども申しました通り、「ビザンツ帝国に関するものはビザンツの赤いお金でしか売り買いすることができず」、「オスマン帝国に関するものはオスマン帝国のお金でしか売り買いすることができない」のが原則です。そして「アヤ・ソフィア」のような両帝国に関するものは両帝国のお金で取引を行います。ゲームの中では日本人である私も「アヤ・ソフィア」を購入し、更に豪勢になるように「塔」などを増やしていくことができます!そして実際に遊んでみるとこんな感じになりました。

Photo-11:ゲームの準備
Photo-12:ゲーム中の盤上
Photo-13:友人宅の庭でナイト・ゲーム

遊ぶのに夢中で、いい写真をいつも取り損ねてしまいます…このゲームは、一回数時間の時間がかかる(五時間ぐらいかかることもありました)、壮大な友情破壊ゲームでした。先述の通り、ビザンツお金を持っているのにオスマンのお金がなくて破産する人もいれば、カードに書かれてある歴史の説明を見ながらゲームが中断して歴史談議に花が咲くなど、プレイ中にいろんなことがありました。「アヤ・ソフィア」や「スルタン・アフメット・ジャーミー(ブルー・モスク)」などの有名で壮麗な建物を購入できたり、これらのマスにとまって多額の通行料を要求されたりした時などはとても場が盛り上がりました。

今回は『コンスタンディノーポリー』(ΚΩΝΣΤΑΝΤΙΝΟPOLY)のレビューのような記事になってしまいましたが、(1)コンスタンディヌーポリ(イスタンブル)の歴史が学べ、(2) 語学の勉強にもなり、(3) ビザンツとオスマンという二重性に由来する戦略性を楽しめる、とても印象深いボードゲームでした。ただ、お値段が購入時75ユーロと購入には少々勇気が必要でした(笑)。

最後になりますが、遊んでいる中で感じたこのゲームのもう一点素晴らしいところに「ある意味での政治的な配慮」というものがあげられるかもしれません。私たちにはなかなか馴染みがありませんが、イスタンブルはギリシアの歴史の中でも重要な意味のある街で、ビザンツ帝国時代には「アヤ・ソフィア」はギリシア正教の宗教的な中心地でした。そしてオスマン帝国時代においてはスルタンが礼拝に訪れる重要なモスクになり、イスラム教にとっても重要な建造物になりました。ですが、このゲームの中ではビザンツ(ギリシア)とオスマン(トルコ)の要素がバランスよく配置され、歴史的な説明も客観的なものにしようと努められています。ギリシア正教の中心地であって今でも一つのシンボルである「アヤ・ソフィア」がビザンツとオスマンの両方の要素を有していることからもそのことが伺えるでしょう(このゲームで描かれた「アヤ・ソフィア」の絵の中のミナレット(尖塔)も赤と青で塗られていますね)。

このゲームの最後の歴史上のイベントは1923年の「ケマル・アタテュルクによるアンカラへの遷都」です。そういうわけで、ゲームの中で1934年の「アヤ・ソフィア」がモスクから博物館になったりというイベントはありませんし、また現実世界で2020年7月24日に博物館がまたモスクになったりということがありましたが、それに関するイベントももちろんありません。なかなかこの出来事は単に「博物館、或いは昔の建物というロマンの対象がモスクになっただけ」のようにも見えるのですが、「アヤ・ソフィア」はギリシア人にとって自分たちの歴史の一部をなすものでもあり、またキリスト教とイスラム教の二つの宗教で象徴的な寺院として使われたという汎人類的な歴史を有する重要な遺産で、このモスクへの転用はこれまでのこの都市の歴史を鑑みるに今日的で政治的かつ文化的に重要な意味を持ってくるのではないでしょうか。ボードゲームという玩具を通してですが、複雑ですが濃厚なイスタンブル(コンスタンディヌーポリ)の過去と今に触れることになる、コロナ・ウイルスと共に過ごした2020年のギリシアの夏となりました。次回もお楽しみに!

ボードゲーム『コンスタンディノーポリー(ΚΩΝΣΤΑΝΤΙΝΟPOLY)』の写真一覧はこちらから!

 

福田 耕佑
福田 耕佑
京都大学文学部非常勤講師。専攻はニコス・カザンザキスを中心とした近現代ギリシア文学・思想史。主な著作に翻訳「ニコス・カザンザキス著 『禁欲』京緑社 2018年」、ギリシア語での著作に«ο Καζαντζάκης και η Ελληνικότητα» στο «Νίκος Καζαντζάκης, Η απω-ανατολική ματιά» (Επιμέλεια Έλενα Αβραμίδου, Ένεκεν, 2019 )。

関連記事

FOCUS GREECE-JAPAN

最新記事

POPULAR