2004年アテネ五輪の開閉会式の演出で世界中に強烈な印象を刻んだギリシャの誇る演出家ディミトリス・パパイオアヌー氏が手がけ、世界各地で絶賛された舞台「The Great Tamer」が満を持して日本で上演される。自らの世界をストイックに追い求め、一切の妥協を許さないその厳しい姿勢から絞り出されるように生み出される舞台は、文字どおり息をするのもためらうほどに変化に富み、観る者の心に爪痕を残すことだろう。
GreeceJapan.comは彩の国さいたま芸術劇場で30日(土)行われた2日目の公演を終えたパパイオアヌー氏に独占インタビュー。今作にかける思いについてお話を伺った。
聞き手:Junko Nagata – GreeceJapan.com
今回のあなたの公演についてお話しいただけますか。特にタイトルの「偉大な調教師(Great Tamer)」とは誰なのか、そして何を調教しようとしているのでしょうか。
偉大な調教師とは、我々すべてを調教するもの、つまり時間のことです。しかし偉大な調教師とはまた、その命が尽きる前に何かを創造したいと願う者であるとも言えるでしょう。
そして何かを生み出すためには、魂のように内(うち)に、肉体のように外(そと)に在るあらゆるエネルギーを飼い馴らし、持てるすべての男性的・女性的な力を振り絞らなければならず、道徳的・精神的な創造に向けて回帰するためにあらゆる肯定的・否定的、建設的・破壊的なエネルギーを飼い馴らさなければならないのです。
昨日作品を拝見して、あなたの演出手法にとてもギリシャ的なものを感じました。まるで未来からやって来た古代ギリシャ悲劇のようだったとでも言えるでしょうか。また同時にあなたの美意識は日本のそれとよく似通っているように感じました。
あなたと日本との出会いについてお話いただけますか。また、その出会いはあなたの創作の手法に何らかの影響を与えたのでしょうか。
もちろん私の出自を考えれば、創作活動の中にギリシャ的な何かが内包されているのは自然なことでしょう。その何かが私の創作活動に潜在意識として浸透する中で、私は意識的に作品に在るべき必要なものからいくつかの要素を選び出しているのです。
私と日本との出会いについて言えば、それは舞踏との幸運な出会いに始まります。ある日、世界的舞踏家として名高い田中泯(たなか みん)氏が主演する公演の出演者の一人に選ばれるという幸運に恵まれ、私は舞踏から様々な経験を得ることが出来ました。こうして舞踏の体系を学び始めたその時、私は自らの身体意識と身体感覚に大きな発見を見たのです。
芸術を愛する者の一人として私は、こうしたゆっくりとした動きを恐れない時間の使い方と、ミニマリズムを恐れず、空間における舞台装置の正しい配置とその均衡とを結びつける空間の使い方を称賛してやまないのです。おそらくこの点に私と日本との出会いがあるのではないでしょうか。
私が舞踏の中でも特に愛したのは、真っ暗闇から原始的な何かを出現させるその方法ですが、こうしたものすべてが、私が芸術的に物事を表現する手段の要素であり、またこれを形作るものであると考えています。
ギリシャ人ダンサーと日本人ダンサーとを振り付けてみたいと思われますか?
そのように考えることはありません。ある日本人ダンサーが私に強い印象を与えたならば、当然ともに作品を作り上げたいと思うことでしょう。それは例えば相手がドイツ人でも同じことです。どの国籍を持つ者かを考えることはありません。いずれにせよ、時がそれをもたらすなら受け入れ、でなければ何も起こらない、そういうことですね。
30日(日)埼玉での公演を終えられた後京都に向かわれる訳ですが、日本を旅されるお時間はありますか。
残念ながらその時間はありません。仕事が詰まっていますので、すぐに発たなければなりません。日本での滞在中1日だけ自由時間がありますので、その機会に日本庭園などを訪れる時間が取れればと思っているところです。
「The Great Tamer」後のご予定はお決まりですか。
ええ、来年2020年5月6日にギリシャ・アテネで公演予定の新しい作品を準備しているところです。その後各国のプロデューサーと協力して世界各地を公演する予定です。
その作品の公演のために再び来日される予定はおありですか。
それが実現すればと思っているところです。いずれにせよ、これは私の力だけではどうにもならないことで、どなたかに招いていただかなければ実現しません。そうなるよう願っています。
ありがとうございました。
・今回のインタビュー取材及び写真撮影を許可下さいました公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団 彩の国さいたま芸術劇場の皆様にGreeceJapan.comより心から感謝申し上げます。