近年世界にその名を知られるギリシャワインが日本でも続々と紹介されつつある今、最も注目すべき二つのワイナリー、キリ・ヤーニとドメーヌ・シガラスを紹介するイベント「Meet the Winemaker 2018 by MOTTOX」が5月21日(月)東京・数寄屋橋のモダンギリシャレストラン THE APOLLOで開催された。
この日のためにギリシャから駆け付けた二人の醸造家-北ギリシャ、西マケドニア地方でアイコニックな地ブドウ「クシノマヴロ」を用いて、創設者にして今はテサロニキ市長としても活躍する父ヤーニス(ヤニス)・ブタリス氏が目指す伝統とモダンを融合させたワイン造りを続けて来たキリ・ヤーニの醸造家/CEOのステリオス・ブタリス氏と、エーゲ海に浮かぶサントリーニ島の宝石とも呼ばれる固有品種「アシルティコ」を用いたワイン造りに情熱を燃やすドメーヌ・シガラスのオーナー醸造家パリス・シガラス氏の二人に、ギリシャワインの魅力についてお話を伺った。
[ キリ・ヤーニ 醸造家/CEO ステリオス・ブタリス氏 ]
日本にようこそ。キリ・ヤーニについて、そして日本の市場にキリ・ヤーニのワインを紹介しようと思われたその理由についてお聞かせください。
我々のキリ・ヤーニはギリシャ・マケドニア中西部地域はナウサのワイナリーで、私の父ヤニス・ブタリスが1960年代からブドウ栽培を続けて来た560ヘクタールにおよぶブドウ畑を所有しています。ここで私たちは最高品質のワインの醸造に力を注いでいますが、中でも特に北部ギリシャの主要品種であるクシノマヴロを重視したワイン造りを行っています。
こうした我々の仕事の中で最も重要となるのは、どのようにして我々のワインを消費者の皆さまにお届けするかということです。我々は常に高品質のワインを追い求める高いレベルの市場を、つまり日本のように成熟した市場を追い求めています。これまで多くの国では、ギリシャのワインと言えば松やにの風味をもつレツィーナの名が挙がる程度でした。幸いにして、日本ではそういった状況は見られませんね。ギリシャでは数え切れない数のワインが醸造されていますが、時とともに消費者の方々も進化し、その消費者を取り巻く市場も進化を続けています。ギリシャワインにとって、市場も、そして時代も、よりオープンになって来たと言えるでしょう。
またギリシャにおける経済危機は、ギリシャワインにとって決してマイナスの側面ばかりではなかったと思います。世界中のジャーナリストたちがギリシャのよい側面を見出そうとした結果、ギリシャワインに光が当たったのですから。ワインはギリシャにとってその誇るべき歴史の一部であり、その品質も年々向上し続けています。私たちキリ・ヤーニではギリシャ固有のブドウ品種の栽培に力を注いで来ましたが、その結果世界中でギリシャワインに対する注目度が上がって来たと確信しています。
キリ・ヤーニのワインと和食との相性についてどう思われますか。
ギリシャワインはあらゆる料理に合わせることが可能です。中でも白ワインのアシルティコやモスホフィレトといった品種は和食に特にお勧めです。もちろん赤ワイン、特にクシノマヴロもお勧めですね。
和食とギリシャワインとのマリアージュから、あなたのお勧めを教えていただけますか。
もちろんです。例えば、我々のワインの中でも「カリ・リーザ」、これはクシノマヴロを使った軽快な赤ですが、寿司ととても相性がいいと思います。
日本のソムリエやワインを扱うプロフェッショナルはレベルが高く、ギリシャワインが和食によく合うということを知っている-これは我々にとってとても重要なことです。一般的に、和食に限らずギリシャワインは食事によく合います。酸味とタンニンが豊富で、食事に合わせてこそその魅力を発揮します。
ギリシャワインの特徴とは何でしょうか。
何よりもまず、ギリシャワインの特徴はそのユニークさでしょう。
一つ目に、世界中どこを探しても見つけられないようなバラエティーにあふれていること。世界中で似たようなワインがあふれる今、ギリシャワインには唯一無二の個性があります。これこそギリシャワインの強味なのです。
また二つ目に、これはすでにお話しましたが、ギリシャのワインは「フード・フレンドリー」である、つまり食事と楽しんでこそその真価が発揮されるということです。
三つ目に、その価格においてもギリシャワインには十分な競争力があると私は思っています。
ワインとは、英語で表現するなら、つまり「センス・オブ・プレイス」を与えるものです。想い出を呼び覚まし、ここではないどこかへ旅立っている、そんな感覚を抱かせるものなのです。
日本の消費者に向けて、ギリシャワインの魅力を味わいつくすためにはどうすればよいか教えてください。
日本の消費者の皆さんはとても厳しい目を持っていますね。それだけに、日本市場は実に成熟していると言えるのですが、つまりこれは日本には世界中からあらゆるワインが集まっているということを意味しています。だからこそ世界のワイン生産者たちは日本市場をターゲットに活動する。こうした状況では、我々は他とは一味違ったワインを提供しなければなりません。
日本の皆さまにはギリシャのワインをぜひ和食と楽しんでいただきたい。そうすれば、どれほどこの二つが合うのかがお分かりいただけると思います。
ワインに関して、ヨーロッパと日本とでは消費者の嗜好に違いはあるのでしょうか。
私の意見では、それほど大きな違いはないというのが正直なところです。例えばヨーロッパ、そしてアメリカでは、始めはよりフルーティーで少し甘めのものが好まれるようですが、その後はヨーロッパでもアメリカでも、そして日本でもバランスの取れたドライなワインが好まれるようです。
今日お披露目されたワインは、あなた方が選ばれたのでしょうか。
ワインを選んだのは、日本でキリ・ヤーニを扱ってくださるモトックスの皆さんです。ギリシャまで足を運び、すべてのワインを試飲し、日本市場にとって風味の面でも価格の面でも最適と考えられるものを厳選しています。
あなた方のワイナリーにとって最も困難であったのはどんな時でしょう。
ワイナリーにとって最悪だったのは今から4年前の2014年のことです。あの時のことはよく覚えています。7月22日に一帯に雹(ひょう)が降り、ブドウ畑がすべて駄目になってしまいました。それだけでなく、続く9月に襲った豪雨によりブドウを収穫できなくなってしまったのです。まさに壊滅的な被害でした。しかしながらこの最悪の事態は、我々をむしろ奮い立たせたと言えるかもしれませんね。
それでは最後に、ワインを愛する日本の方々に一言お願いします。
日本の皆さま、そしてワインを愛する日本の皆さまに心からお礼を申し上げます。皆さまのために、我々の力の限り最善を尽くして、優れた品質のワインをお届けすることをお約束します。
ありがとうございました。
[ ドメーヌ・シガラス オーナー醸造家 パリス・シガラス氏 ]
日本にようこそ。ドメーヌ・シガラスについて、そして日本の市場にドメーヌ・シガラスのワインを紹介しようと思われたその理由についてお聞かせください。
サントリーニ島のワインについて、また我々の国ギリシャについてお話する機会をいただき感謝します。
サントリーニには、他のどんな地域にも引けを取らない歴史をもつ最高品質のワインがあります。我々にとって重要なミッションは、特徴ある逸品を追い求めるワインカルチャーをもつ国々に、サントリーニのワインをお届けすることです。そういった意味から、日本は我々にとって最も重視すべき国であると言えるでしょう。
ドメーヌ・シガラスのワインと和食の相性についてどう思われますか。
魚介類をふんだんに用いる和食には、我々サントリーニの誇る白ワイン、アシルティコがぴったりでしょう。アシルティコには程よい酸味とすっきりとした後味があり、それでいて豊かな風味がありますから。また魚介類だけでなく、鶏肉のようなあっさりとした肉類にもよく合いますね。
ドメーヌ・シガラスのワインの特徴とは何でしょうか。
数あるドメーヌ・シガラスのワインのうち、我々が誇るアシルティコについてお話しましょう。このアシルティコは気品ある風味と爽やかな酸味をもち、優れたストラクチャーがあり、ミネラルが豊富で、最後には心地よい余韻を感じることができます。こうした特徴から、様々な料理とのマリアージュの可能性をもち、和食のように複雑な味わいをもつ料理ともとても相性がよいのです。
和食とギリシャワインとのマリアージュから、あなたのお勧めを教えていただけますか。
そうですね、私は寿司と刺身と合わせてみたことがありますが、それはもう、この上なく素晴らしかったですね。他にも焼き魚と合わせてみたことがありますが、こちらにはより熟成されたサントリーニのワインが似合うように感じました。
私自身のお勧めをお話ししましたが、まずは食事とともにワインを楽しまれる消費者自身が、時間をかけてゆっくりと数多いワインの中から食事とのバランス、調和を見出していかれるものだと私は思っています。大事なのは消費者の好みなのです。
我々のアシルティコにはフィネスと繊細さ、そして素晴らしい後味があり、また繊細にして複雑な風味を合わせもっていますが、丁寧に調理された美味しい料理は、その料理と同じくクオリティの高いワインとともに楽しんでいただくことが必要であると、消費者の皆さまが理解していただくことが何より重要だと思います。
日本の印象についてお聞かせください。
今回日本にお招きいただいて、日本の方々が客人を迎えるその振る舞いや街の清潔さ、伝統に敬意を払いつつも革新性を失わない素晴らしい建築物に感銘を受けました。この素晴らしい国に度々訪れる機会があることを願うとともに、日本の皆さまの更なる発展とご多幸を心よりお祈りいたします。
ありがとうございました。
(取材協力:株式会社モトックス/THE APOLLO)