「ストロングマン」公開記念:ギリシャ映画とギリシャ音楽

アティナ・ラヒル・ツァンガリ監督最新作「ストロングマン」が3月25日(土)から新宿シネマカリテを皮切りに全国順次公開される今、ギリシャ映画が日本でも静かに注目を集めている。

今回は、独特の世界観で世界の映画人を魅了する現代ギリシャ映画の中でも、ヨルゴス・ランティモス監督の「ロブスター」とツァンガリ監督の「ストロングマン」を彩るギリシャ音楽に焦点を当ててご紹介する。日本人にとっては知られざる、だがギリシャ人にとっては納得のメロディは、演歌を心に持つ日本人にはきっと心に響くはずだ。(*歌は映画の登場順。)


[ ヨルゴス・ランティモス監督「ロブスター」]

『アポ・メサ・ペサメノス』/唄:ダナイ

ギリシャ人作詞作曲家・アティックが作詞作曲した歌をアテネ生まれの歌手ダナイ(ダナイ・ストラティゴプール)が歌ったもの。

1920年代に発表されたこの歌は、主人公デヴィッド(コリン・ファレル)たちが森の中を逃げ惑うシーンで使われている。-かつて愛しあった貴女が去り、今私は生きながら死んでいるのと同じ、と歌うこの曲と幻想的な森の風景が、映画に強い印象を与えている。

『ティ・イネ・アフト・プ・ト・レネ・アガピ』/唄:ソフィア・ローレン、トニス・マルーダス

映画「島の女」の主題歌として知られる「イルカに乗った少年(Boy on a Dolphin)」がこの歌。「愛と呼ばれるものは何」というギリシャ語題のとおり、愛と呼ばれるものは何?誰の口にも見つけて言い表せぬもの-と歌うこの一曲に、自身の映画のエンディングにこの歌を選んだランティモス監督の想いが込められている。


[ ツァンガリ監督「ストロングマン」]

『ミア・フォラ・シマメ』/唄:アルレータ

1966年に発表された女性歌手・アルレータのファーストアルバムの一曲。登場人物の6人が船の中で夕食を共にする時静かにバックで流れているこの曲では、「私を愛してくれたあなた、今は雨ばかり」と過ぎ去った愛を歌っている。

『ミア・ボスコプーラ・アガピサ』

ちょっと鈍いが憎めないディミトリス(マキス・パパディミトリウ)が、船内放送で朝皆を起こそうと歌うシーンで使われている。「羊飼いの娘に恋した、その時僕はまだたった10歳だったー」と、年上の羊飼いの娘に思いを伝えながらも実らなかった淡い恋心を歌っている。

『イ・ボサノヴァ・トゥ・ザハロプラスティウ』

1976年にギリシャ国営放送の第3放送で開始された子供向けのラジオ番組「エド・リリプポリ」の中から生まれた一曲。ギリシャ人なら誰もが知るこの番組からは数々の名曲が生まれ、これまでにライブ盤を含め多くのアルバムがリリースされている。

「お菓子屋さんのボサノヴァ」と題したこの歌は、ディミトリスが朝皆を起こそうと歌う2曲目。

『ト・ダフティリディ』/『アナジティシ(Never Find It)』

「指輪」を意味するタイトルのこの歌は、ギリシャの子供たちの間で今も行われている遊びの歌として歌われているもの。一人の子供が指輪を持ち、「どこ、どこ、指輪はどこ?探しても見つからないよ」と歌いながら輪になっている子供たちの誰か一人に指輪を渡し、歌が終わった時に誰が指輪を持っているかを当てる遊びは、映画で描き出された男たちの意地の張り合いに対するツァンガリ監督からの一つの答えなのかも。

この「ト・ダフティリディ」をギリシャの女性3人組バンド・S.W.I.M.がアレンジし「アナジティシ(探索)」として発表した一曲がエンディングとして使われている。

 

永田 純子
永田 純子
(Junko Nagata) GreeceJapan.com 代表。またギリシャ語で日本各地の名所を紹介する  IAPONIA.GR, 英語で日本を紹介する JAPANbywebの共同創設者。

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