今年4月に開催されたオリーブオイルの祭典The New York International Olive Oil Competitionで、日本の高尾農園のつくるエキストラバージンオリーブオイル「高尾農園のオリーブ畑」が、世界22の国と地域から参加した653のオリーブオイルの中から見事「Βest in Class」賞を獲得するという快挙を成し遂げたことは記憶に新しいことだろう。
つねに土づくりに心を配り、困難を乗り越え、試みに試みをかさね、国際基準に則した品質の高いオリーブオイルづくりを目指す高尾農園代表の高尾豊弘氏から、今回の受賞にいたるまでの試みとオリーブオイルに対する想いについてお話を伺った。
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あなた方のエキストラバージンオリーブオイル「高尾農園のオリーブ畑」について、そして今回、スペインやギリシャといったオリーブオイルの名産地として有名な国々の製品をおさえ最高賞を獲得されたこのコンペティションでのご経験についてお話しいただけますか。
高尾農園は、約5ヘクタールの畑で、植えたばかりの苗も含め約3,000本のオリーブを育てています。オリーブ畑年間の管理は、私と助手の2名で行っていて、大学生を中心に年間のべ500名の方々が、国内、遠くは香港から、畑の手伝いに来てくれます。昨年より感謝の気持ちを込め、お米と大麦(麦茶用)の自給を始めました。
採油も大夫上手になってきました。その年々、収獲したオリーブの実を一番ベストと言いましょうか、樹になっている実の状態を見極めながら、収獲し採油、それぞれ品種の味を引き出すことが、一番と考えています。
昨秋は、ミッション種100%とルッカ種100%のオリーブオイルを搾り、ボトリングさせていただきました。ルッカ種の収獲は、いいタイミングで始めたものの、収獲終盤になり思ったより熟れが早く、思った味が出せませんでした。しかし、ミッション種は収獲・搾油とも最高だったと感じ、今回のNYIOOCへのコンテストに応募しました。まさか、ベストインクラスの受賞となるとは思ってもいませんでした。ありがたく、光栄です。
出品させていただいた、ミッション種100%のオリーブオイルですが、1908年にカリフォルニアより小豆島へやってきました。先人の努力により、小豆島に根付き栽培されている品種です。また、ルッカ種もカリフォルニアから来たと聞いています。
今回出品させていただいたミッション種は、主にテーブルオリーブス(オリーブの塩水漬け)に使われる、中果~大果の品種です。油分は少なく、水分の多い品種で、搾油には非常に苦労する品種です。
その上、秋には、秋雨と台風で多くの雨が降り、果実の中に水分が多く含まれることから、搾油時の乳化やマラキシング時間など、たくさんの苦労があります。昨秋もその苦労はありました。破砕時のグリッドの大きさの判断やマラキシング時間、遠心分離器の調整などです。販売(利益)を考えるなら10%以上の搾油率を考えがちですが、黒く熟れすぎた果実を搾らなければその率は達成できません。でも、その品種で一番美味しいところを引き出してあげるのが、オリーブ農家の使命だと考えています。
早すぎると胡椒の様なツーンと鼻を突く香りになり、熟れすぎるとぼやけたと言うのでしょうか…そんなオイルになってしまいます。今回のミッション種は、搾油率7%でした。
自家用に、無花果やすもも、葡萄など、いろいろな果樹を育てています。果実は、熟れて一番糖度がのったときに摘みとり食べるのが美味しいですが、オリーブオイルは、その品種の一番美味しいとき(バランス)に収穫し、採油してあげるのが一番だと思い考え、鳥など動物との食害はないものの、そこが一番収獲と搾油の難しい果樹が、オリーブと考え、それが、他の果樹とくらべ難しいところと痛感しています。それができたのが出品させていただいたオリーブオイルです。
また、私はオイルの味の前に、COI(国際オリーブ理事会:スペイン本部)の国際基準に沿ったEVOO(エキストラバージンオリーブオイル)づくりをしています。COI基準のケミカルテストとパネルテストは、毎年、イタリアの検査機関へ送り検査を受けています。日本国内では、主な数値の酸度や過酸化物価のみなのですが、COIの基準でケミカルテストを受けています。酸度だけでは、ミッション種0.09、ルッカ種0.08でした。収獲した果実は、その日の内に搾油することを原則としています。多く収穫できた日でも、遅くとも翌日の午前中に搾油しています。国際基準に沿ったOlive Oilづくりは、International Trade Standard であるとともに、検査結果の数値等を見て、反省し、次のシーズンの収獲から搾油、濾過しボトリングするまでのクオリティ向上にも役立つ数字なのです。
日本におけるオリーブの栽培にはどのようなご苦労がおありでしょうか。
「除草剤を使えば、どんなに楽だろう…!」と思いますが、年間4回の草刈りは、除草剤は使わず、手作業で草抜きをしたり、小型耕耘機(小型管理機)、ハンマーナイフモア、草刈り機を使っています。刈り取った草は、そのままにしています。これは、土壌から吸収した養分をまた土壌に戻すためだったり、有機物の分解消失を防いだり、さらにはオリーブ畑には段々畑ののり面や斜面が多いので雨による浸食防止や雨水が急に流れないようにするためです。
日本の気候は、世界のオリーブ栽培地と気候が逆で、夏湿冬乾気候です。春から秋の雨期や湿度の高い時期が一番苦労する時期です。春雨・梅雨・秋雨などの雨の多い時期は、土壌の過剰水分を草にも吸収されるためわざと草をそのままにし、雨期のあとすぐに刈り取ります。特に真夏に向かう高温期には、オリーブの樹と草の水分競合が激しくなり、それを防ぐため急いで草を刈らなければなりません。この時期が一番労力を必要とし、暑さと草も元気よく体力勝負の時期でもあります。
土づくりに使用している肥料は主に、発酵鶏糞肥料・発酵牛糞堆肥・蛎殻肥料などの動物性有機物、油粕などの植物性有機物です。また、主にマメ科やイネ科の植物を利用した緑肥を試験しながら使用しています。緑肥は、畑に種を蒔き大きく育った植物を鋤込んで肥料にしたり、土壌改良や雑草を抑えるなどさまざまな効果があります。動物性有機物や植物性有機物を施したり、緑肥を作付けしたり、山野草を刈り取った草や根をそのまま残したりしています。オリーブの根は、酸素要求量が多いため、雨水の排水性を考るなど工夫をしています。そのため空気の流れを良くしてくれる有機物、土壌中の生物や微生物のことも考えながら土づくりをしています。
日本でも食卓でオリーブオイルを使うようになってきたと思われますか?日本ならではの、小豆島ならではのレシピがあれば、あわせてお教えください。
近年、オリーブオイルは日本の食卓に使われるようになってきたと感じます。しかし、消費者は興味を持ちながら、どのように使えばよいかといった質問が沢山寄せられます。その質問の意味は、私がつくるオリーブオイルが美味しく食べられる方法なのか、それともオリーブオイルをどのように使ったらいいのか…、どちらの質問なのかは分かりません。
昨秋、オリーブごはんがNHKで紹介されましたが、これは結構美味しいです。
使い方の問い合わせには、普通に食卓で使っていただけるよう説明させていただいています。香りの弱いオリーブオイル(香りを楽しみたいとき)は、暖かい料理にかける。バランスのとれたオリーブオイルは、冷たいものなどそのまま使っていただくといいのでは…と。オリーブオイルと塩と柑橘(キンカン以外)は、よく合います。柑橘果汁だったり皮のすり下ろしだったり、サラダや白身魚(焼きか生)にもいいですし、インテンスのオリーブオイルなら焼肉にもいいです。
醤油より諸味とオリーブオイルは合うと思います。モロキューにオリーブオイルもいいですし、冷や奴にネギ&生姜&ゴマ&鰹節、ここで醤油で頂くのですが、諸味とオリーブオイルで食べると最高です。
今の季節、アサリも旬ですが、アサリの酒蒸しの出来上がりにオリーブオイルをかけてたり、酒蒸し途中にオリーブオイルを入れ、アクアパッツァの様に乳化させても美味しくいただけます。同じ酒蒸しでも、オリーブオイルの使い方によって、二通りの味を楽しめます。
こんな感じで、私は、家庭で食べられているだろう和食や洋食を想像しながら、オリーブオイルの使い方をお伝えするようにしています。これからもっと暑くなってくると、トマトスライスにオリーブオイルと塩で美味しいですし、ナスの田楽にも味噌とオリーブオイルをあえても美味しいです。
高尾農園のある小豆島は、ギリシャのミロス島と姉妹都市を締結されていることはご存じかと思います。
ギリシャと、ギリシャのオリーブオイルとの関係についてお話いただけますか?また、ギリシャをご訪問されたことはおありですか?また、ギリシャのオリーブオイルについて、どのような印象をお持ちですか?
ミロス島との姉妹縁組は知っています。小豆島では行政の方々は、交流しているようですが私たちオリーブ生産者や小豆島内の消費者の交流へ、今後の発展も期待しています。(財)オリーブ公園では、ギリシャ産オリーブオイルの販売もされています。
先月、近くの方が昨年ギリシャの友人を訪れたときの写真や動画を見せてくれました。
オリーブ栽培や搾油、日本とは違ったシステムに興味を持ち、私も一度行きたいと思っていますが、語学が駄目で、また、どこへ行けばよいか分からないのです。
私は、勉強のために家で使うオリーブオイルは、すべて違った銘柄のオリーブオイルを使うようにしています。ギリシャ産のオリーブオイルに出会うことは多々あり、美味しいものがたくさんありました。和食に合う美味しいものでありました。
ありがとうございました。
・GreeceJapan.com 関連記事 / 小豆島-日本の「オリーブの島」(ギリシャ語/Ελληνικά-Greek Text)